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書籍紹介(人材マネジメント入門/守島基博)

■書籍名:人材マネジメント入門

■著者:守島基博

■出版社:日本経済新聞社

■どんな人向けか:人事の全体像を把握されたい方(ある程度実務を経験されている方)、文章に抵抗がない方

 


7~8年目でようやく理解できた”人事”の全体像

人事を経験される方に最初にお勧めする本として、本書を挙げたいと思います。

本書は私が4~5年目の頃に当時40歳くらいの課長が人事課内で勉強会を開いてくれており、その際に指定図書になっていたものです。その課長は、「みんな前提知識がないだろうから、まあ新書だし、薄いし、このくらいの本でいいか」という軽いノリで選択していたように記憶しているのですが、当時の私は全く太刀打ちができず、途中で挫折してしまいました。

それもそのはず、私がその当時所属していた部署は500人ほどの地域を管轄する小さな人事総務で、自分が何をやっているのかわかりませんでした。携帯の手配、退職金の計算、部長会の設営や資料準備、人員計画などなど…。要は業務が分類されておらず、人事・労務・総務・庶務・教育などがごちゃ混ぜになっていたのです。後から考えると、それはそれで経験にはなったのですが、当時は闇雲に仕事をしている感覚でした。

その後、明確に人事分野を担当し始めて、”人事”と呼ばれる範囲が分かるようになってきました。そして、7~8年目になると自分の部下ができ、人事の経験が浅い方に対して人事勉強会を毎週1時間開くことにしたのですが、その際に本書を読み返してみると、人事の業務範囲について網羅されており、我々の役割を整理するのに非常に役に立ちました。そのため、本書はある程度実務を経験されている方がよいかなと思います。また、新書につき、図表があまりないため文章に抵抗がない方におすすめしたいです。もう少しかみ砕いた内容の本については、またご紹介したいと思います。

 


人材の流れ(フロー)を意識する

人事・労務・総務・庶務・教育などの業務を一貫性なく雑多に経験している中で、人事についての特徴を理解することができました。人材フローとは、人が入社してから退職するまでの時間の流れのことです。従業員が企業に在籍する年数はその業界や企業によってさまざまですが、一度雇用すればあとはそれで放ったらかしでよいということではありません。まさに、この本に書かれているのですが、人事に携わるには「人材フロー」を頭に思い浮かべ、どの点・どの線に対して施策を講じているかを意識することが重要になります。

 

例えば、「人を育てる」ということにフォーカスを当てた場合、下記のようにどこを対策したいかによって講ずべき策が変わっていくことが分かると思います。

①日々の業務の中で従業員同士の成長を促すのか→OJT

②日々の業務では学ぶことができない分野や視点について補填するのか→外部研修

③昇格前後で求められる役割を認識させるのか→階層教育

③リーダーに部下の成長を促させるのか→リーダー育成

④早い段階から会社として期待していることを表し、自己研鑽させるのか→次世代経営層の抜擢

⑤若年層に対して仕事の基礎を教えたり、企業カルチャーへの定着を図る→メンター制度

 

この焦点がぶれてしまったり、ピントを絞らずに何となく全体的に…と実施してしまうと、具体的な結果を何も得ることができず、「人事は実績作りだけ」と揶揄されることになりかねません。必ず、自組織の分析とフォーカスすべき層の特定は実施した方が良いわけです。そして、どのようにフォーカスすべき層を特定するかにおいて、本書が非常に役立ちます。

本書を読むことで、人が雇用されている間のフェーズも分解し、上記の分析結果と照らし合わせることで、その企業独自の人事施策を組み上げることができます。ぜひ、ご参考にされてみてください。(分析方法が分からない方は無料相談が御座いますのでお気軽にご連絡ください)

 


人事部はいらないのか

本書の中に「人事部はいらないのか」という項目が存在します。

最初に本書を読み始めた4~5年目の頃は、自分の仕事に自信が持てず、会社のために何が貢献できているかが分からない状態だったので、この章を見た時にはどきっとしました。ですが、現在人事12年目を迎える段階で、そしてさらに人事コンサルタントとして活動しているので尚更ですが、「人事部は必要だ」とはっきりと明言することができます。

但し、個人的には、人事部が念頭におかねばならない条件があると思っています。人事部が一番忘れてはいけないのは「人事施策を導入することを目的にしてはいけない」ということです。常に知識を刷新し、自分が今担当している施策は「社員にとって有益な施策になっているか」「会社にとって成果を導ける施策になっているか」という最終結果を常に自分に問いかけることをしてほしいです。きれいごとだけではない人事の仕事ですが、そこだけは軸をぶらさないように進めて頂ければと思います。

小さな施策で視野がいっぱいにならないように、本書によって”人事”の中の自分の立ち位置を把握しましょう。そうすれば、他にもっと有益な施策が見つかるかもしれませんし、他の分野から手を付けた方が良い場合にも気付くことができます。例えば、確固たる目的もない状態で例年通りということで「階層教育」を計画している担当者が、人事全体が見渡せるようになることでピントが絞られ、「リーダー育成」にフォーカスすることだってできるわけです。

先述しましたが、私はよく他部署の従業員から「人事は実績がほしいだけ」と言われていました。それは、当時の人事部門において、この人材フローの全体像が見通せるメンバー・リーダーが少なかったことが原因だと反省をしています。これから人事としてプロフェッショナルを目指される方は、ぜひ本書を読んで頂ければと思います。