事業成果を出す組織を作るの実績紹介

書籍紹介「経営組織」(安藤史江、稲水伸行、西脇暢子、山岡徹)

■書名:「経営組織」

■著者:安藤史江、稲水伸行、西脇暢子、山岡徹

■出版社:中央経済社

■どんな人向けか:リーダーが知るべき組織のメカニズムやダイナミクスを知りたい人、自分の組織を良くするために論理を身に付けたい人、経営組織論の読みやすい本を探している人

 


人事コンサルタントが立ち戻る理論の教科書

私は人事コンサルティングをしていますが、ただの人事制度屋ではなく、組織が成長するところまで責任を持つことを信念としています。そもそも、人事とは手段であり、本来の目的は事業成長できるような組織を作ることです。その目的を果たすために機能が分かれて採用・教育・制度・人件費管理などに分かれて分担しているにすぎません。

そのため、組織の勉強については常に怠ってはいけないと考えています。事業と組織は経営の両輪と考えられていますし、いくら良い事業を提供しているとしても組織がついてこなければ水の泡です。しかも難しいことに、組織は生ものであり再現性が低い。良いマネージャーが別の企業でもそのマネジメント能力を発揮できるかと言われたら、メンバーや担当部署、役割や顧客が異なる中で、リーダーシップを発揮できるかは分かりません。

これだけアドリブ要素が強いマネジメントを司らなければならないのですから、組織を作る立場にいる人は少しでも理論を叩き込んでおくべきと思っています。そこで、本書「経営組織」を今回お勧めします。

チームの大小にかかわらず、組織を引っ張るリーダーはただ指示を出せばよいのではありません。特に経営まで上位層から会社全体を引っ張るとなると、組織の構造から部下のメンタルまで、「組織」に影響をもたらすあらゆる要素を頭に入れておく必要があります。複雑すぎて面倒くさいと感じてしまう人もいるかもしれませんが、私はそれは勿体ないと思っています。折角これだけ関連要素があるのであれば、それを活用しない手はないのです。

例えば、本書にモチベーションというテーマが出てきますが、「人のモチベーションなんて人それぞれじゃん」と言ってしまったらそれは解像度が少し低いと思います。モチベ―ションの基礎を知っているリーダーと知らないリーダーで、率いる組織の雰囲気や成果の達成度が変わるのであれば、モチベーションが湧き出る理論を学び、少しでも組織作りに活かしてみてもよいと思います。

また、経営者に必要なリーダーシップですが、学んでいる人をあまり見たことがありません。しかし、本当に何も学ばずしてリーダーシップを発揮できるのでしょうか。本書の中にも出てきますが、「仕事ができるから部下がついてくる」、もしくは「ポジションに就いているから部下がついてくる」ことはないと言う話が出てきます。言い換えれば、「社長だからリーダーシップがある」「事業部長だから部下が言うことを聞く」というポジションありきのリーダーシップはあり得ないのです。

ということは、逆に言うと勉強すべき「リーダーのスキル」「リーダーの知識」というものがあるということで、リーダーシップを発揮するには、先天的な才能ではなく後天的な知識で決まるとも言えます。これらは実務で習得することは非常に難しく、業務とは別に時間を作って理論を学ばなければ一生身につくことはありません。世のMBAはそのためにあるのだと思っていますが、本書は大学の教科書として使用されているもので、読みやすくかつ全体を網羅できますので、経営層に就いている方やそこをめざされる方、リーダーとして部下を持っている方はまずこちらで学んでほしいと思います。

 


モチベーション、意思決定、生産性、リーダーシップ…リーダーの視野の広さとは

各企業は組織をどのようにまとめていくかを常に試行錯誤おり、様々な制度やルールが組織の中に敷かれています。その制度やルールが、なぜ組織にとって良い影響を与えるのか、という根拠部分は実は導入した部署でも深く理解していないことがあります。

私は人事制度のご支援をしていますので、ここでは目標管理制度を例に取ってみます。

MBOと言われる目標管理制度は多くの企業に導入されています。しかし、なぜメンバーに目標を立てさせるのか、それをなぜ上長が面談で管理するか。理由を説明できますか?

本書によると、メンバー一人一人が目標を立てることは様々なメリットがあると言います。例えばモチベーション。人は何かを行動の前に、動かされる動機があります。ということは、動機がない行為はしないことになり、動機があれば自ら行動することになります。

目標を立てることは、社長の目標の一部が分割されて自分の目標となることで動機がもたらされます。ここで進行方向を揃えておくことで、その目標達成のための行為は他人(社長)のためにやるのではなく、自分の目標を達成するためという動機が生まれます。もちろん、ここには報酬の連動が必要ですが、それだけではなくこの社長の目標(会社の目標)と個人の目標の連続性を接続するものが目標設定制度になるわけです。これは、内的動機を高めるとも言い換えることができます。

ここでのポイントは、リーダーが「制度だから」とか、「会社がやれと言うから」とくれぐれも部下に言ってはいけません。

なぜかというと、目標管理制度はモチベーションを高めるための施策なので、部下のモチベーションを下げるような説明は目標管理制度を運用する上では不利だと、理論を学んでいれば分かると思います。面談でのリーダーの振る舞いも同様です。理論を学ぶと、「リーダーのモチベーションを引き出すことがリーダーシップはどのようにふるまえばよいのか」が分かります。部下はリーダーにリーダー然としていてほしいのです。社長であれ、部門長であれ、そのポジションに立つということは、それを支える土台を作らねばなりません。

 

目標管理制度の全体図(IGNITE HORIZON作成)

目標管理制度の全体図(IGNITE HORIZON作成)※この図が示すのは、社長の想いを個人の動機へ『翻訳』するプロセスです

そして、この部下の目標が達成できるように引き上げるのが上長の役目、つまりリーダーシップになります。そこから派生して組織の内部の分担を考えれば生産性を高める活動は日々必要ですし、リーダーが担う役割の大きな部分を占める意思決定、部署同士がぶつかり合うコンフリクトなど、日々の業務で理解しておくと得するような理論が満載です。

一つ一つの理論を見ると独立しているように思いますが、それぞれの理論はすべてつながっています。そして、今回通読してみて改めて経営者・リーダーなど、チームの上に立つような方たちは頭に入れておいてほしいものばかりだと思いました。現場で実践することが無いと侮ることはできない。人を動かすのに理論は必要です。

具体的な一つ一つの理論については、また別記事で解説していきたいと思います。

 

何が評価されているかわからない虚しさ

複数のご支援先にて従業員面談を立て続けに実施しました。そこで、どの企業様でも共通して出てきた話があります。人事制度が上手く機能していない企業様では「何が評価されているのか分からない」「自分は会社に貢献できているか実感がない」という声が多く寄せられました。

中小企業は従業員数が少ないので、一人一人の重さが大きく、一人辞めれば死活問題です。それでも、このような意見が多数出てくるということは、やはり人間は自分が貢献できているかを確認したい生き物なのだなと思います。

では、なぜそれほどまでに「貢献の実感」が持てないという声が現場から上がってくるのでしょうか。

評価制度は、人間が根源的に抱えるこの「切実な願い」に応えるための装置であるべきだと考え、本本記事では、心理学的な「貢献欲求」の観点から、組織力を蘇らせる評価制度の本質を解説します。

 


チームに貢献できているか確認したい

太古の昔から、人間は小さな集団で生活をしてきました。そこでは、自分がいかにこのチームに貢献しており、いかに必要な人材になるかということがその集団での生存戦略だったと言えます。

現代の日本においては、その集団は会社であり、さらに小さな集団は自分の部門ということになります。自分は本当に、この場所で必要とされているのか。 従業員は常にこの問いに対する「確信」を求めています。

私は人事制度のご支援をさせて頂く中で、人間の「貢献したい気持ち」と「貢献していると確認したい気持ち」がいかに組織に作用しているかを実感するようになりました。つまり、この気持ちを上手く扱えているかどうかが従業員の定着に大きく関わっていると思います。

まず若手についてですが、若手については明確です。若手の離職に悩まれている企業様では、「あなたの貢献度」や「将来への期待」を伝えられていないことが非常に多いです。つまり、「将来への期待」を言葉にできていないケースが目立ちます。1on1のような面談をやっていても、そこに意思のキャッチボールを取るコミュニケーションがない場合も見られます。よくあることではありますが、しっかり時間も取って打合せはしていても、核心について話している時間が短いこともあります。これでは、折角業務の合間をぬって打合せしても意味が薄くなってしまいます。

その中で意外と見落とされがちですが、実はこの問いは長年その企業を支え続けてきたキーマンやベテラン社員の方からも話が出ます。私は組織診断で実施する従業員面談において、何度もこの話を伺ってきました。

キーマンの方は、自分のスキルアップや給与アップといった個人的なフェーズを超え、「会社全体の底上げ」や「伝統の継承」に意識が向いています。そのため、自分自身ではなく、自分が自発的に取り組んでいる施策が社内で重要視されていないことに関しては、虚しさを感じていることがあります。ここに社長様が気付いていないことも多いように私は感じており、社長様とキーマンの面談に私が同席することもあります。

そしてベテランの方々。この方々は会社の過去を担ってきた人たちです。新しい事業を始めようとしたり、新しいやり方を取り言えれようとすると、ベテランが阻止してくるという話も伺います。ベテラン勢が新しい変化に反発するのは、変化を嫌っているからだけではありません。「自分のこれまでの貢献(過去)が否定されるのではないか」という恐怖の裏返しでもあります。しかし、私が感じることはベテランこそ会社への愛着と帰属意識があるのです。この方たちが会社の良いところを支えているとも言え、会社の経歴を語ってくれることが伝統として未来につながっていくため語り手として重要な役割はあると思います。

そこで、「キーマン・ベテランにこそ評価をフィードバックしてあげてください」と社長様にお伝えしています。それは、良いことばかりフィードバックするものではありません。会社の中にずっといたからこそ、外の動きに鈍いこともあります。会社が今までと異なることをやろうとすると反発もあるでしょう。あなたの過去の働きっぷりを否定するものではない。過去の貢献に感謝しつつ、今後やってほしいことをきちんと伝えていくことは会社側の義務だと思います。

 


貢献したい気持ちを満たす昇格審査

「貢献したい気持ち」と「貢献していると確認したい気持ち」。この欲をきちんと満たすことができれば、従業員はその組織に意思をもって所属してくれると思います。逆に言えば、これらが確認できない組織からは従業員は離れていってしまうということです。

評価制度はそのメッセージを伝える唯一の方法だと思います。それはつまり、評価制度を運用できていない企業様においては、「あなたはこの組織に必要です」というメッセージを伝える術が他にほとんどありません。使わない手はないのです。

そのためにやるべきは、評価制度をきちんと運用し、評価の高い従業員を「昇格審査」をすることで役職に就くための選抜をすることです。審査を通ることは、多かれ少なかれ従業員にとって嬉しいことです。任命してもらったんだから責任を果たそうという気持ちが湧いてくるはずです。

当社で提案している管理職昇格審査の案です。

上記資料は当社で提案している昇格審査のサンプルです。特に、管理職に上がるときは大きな変化になりますので、できる範囲で構いませんが必ず審査を実施した方がよいと言うのが私の意見です。

ここを省略してしまうのは、上記の「あなたの貢献度」を伝えるタイミングを逃してしまうので、非常に勿体ない。機会の有効活用をしてほしいと思います。

 

 

 

等級制度についてはこちらの記事を御覧ください。↓

等級制度は人材育成の概観図

報酬制度(賃金)についてはこちらの記事を御覧ください。↓

基本給の個性

 

あなたの会社の賃上げすべき層は本当に若手なのか

先日、東京都主催セミナー「統計技法を使った中小企業のための賃上げセミナー」に出席してきました。

非常に参考になったセミナーでしたので、備忘録もかねてブログにまとめたいと思います。

 

 


基本給の上げ方は3種類

近年、最低賃金の上昇に引っ張られる形で正社員の賃上げが進んでいます。

社会の流れが賃上げの流れのため、この流れの中で「自社も賃金を上げます」という姿勢を従業員に示せるかどうかが経営者に迫られています。特に中小企業は、今までほとんど賃上げをしてこなかったというお話もよく聞きますので、どこの経営者も「今まで頑張ってくれた従業員に還元したい」と奮闘されているように見られます。

さて、賃金=給与として考えた時に、賃金を上げると一口に言っても方法はいくつかあります。

まず、給与は大きく分けて基本給と手当に分かれています。簡単に説明すると、基本給はその個人の会社での貢献度や重要人物度を表しています。そのため、その会社に在籍している間は下げることは難しい(過去の評価を否定することになる)とされています。一方で、手当は役職や家族の有無など対象者が置かれている一時的な状態に対して支給する性質があり、その状態が解除された際には手当を外してもよいとされています(実際は適切な手続きを踏まなければなりません)。では、基本給はどのように算出されているのか、手当はいくつ種類があるのかなど、賃金の構成要素を分解し、どの部分を手厚くするかを考えることが報酬改定の第一歩です。

では、基本給を上げようとなった場合、一般的に3種類の上げ方があります。

一般的に「賃上げ」と言われるのものは「ベースアップ」に当たります。役職ごとに階差をつけるにせよ、一律で〇%や○○○円アップというように一斉に上げるやり方です。上記資料の図のように給与幅がまるまる垂直移動するイメージで、同じ箱に入っている人であれば個人の属性や能力に寄らず同じ金額分だけ上がります。

最低賃金が迫ってくる以上、ボトムの賃金は上げなければなりませんし、原資をたっぷり用意したからこそ「皆さんに利益を還元しました!」と経営者の方は言いたくなるとは思います。しかし、ベースアップとは賃金が「一律に」上がるしくみです。能力が高い人も低い人も、勤続年数が長い人も短い人も、キーパーソンもそうでない人も、個人の属性に関係なく賃金が上がります。これをどのように従業員が捉えるかについて、経営者は認識をはき違えないようにしなければなりません。

 


初任給を上げた先に待っているのは

上記の3種類以外に、最近では「初任給を上げたい」というご要望を頂きます。

大企業で「初任給30万」という話がニュースになるたびに、中小企業は戦慄してしまいます。そんなに人件費を上げたら倒産してしまう、でも若手を採らないと会社の未来を作っていけない。どうしたらよいのか…という不安ですね。

そこでやむを得なく、新卒~5年目くらいまでの若手社員の基本給を上げているケースを見かけます。苦し紛れの初任給アップということです。

しかし、これには2つの問題点があります。

一つ目はそのボーナス期間が終了すると、そこから賃金カーブを維持することはできず、上がり幅が低くなってしまうことです。若手人材がそのような会社に何年も在籍したいと思うでしょうか。これでは、結局昇給額が少ないことに不満を感じ、折角若手時代を育成した従業員がこれから戦力になるというタイミングで退職してしまうのは目に見えています。これは、若手の社会人キャリアをある意味騙して入社させるようなものなので、私はおすすめはしません。

二つ目は、5年目以下の社員と6年目以降の社員の基本給の逆転です。これは本当に厄介で、今までコツコツと勤務してきた従業員層が一気にやる気を失います。なぜこの間入ってきた人材が自分たちより給与が上なのか、説明されても納得はできません。そして、一つ目の理由に書いた通り、ボーナス期間が終わるとさっさと退職してしまう。育成の負担がのしかかっただけで、自分たちの給与は上がっていかない。

これはセミナーの中でも講師の方が問題として仰っていましたし、私自身もこの問題を伏せつつ初任給を上げる報酬制度を提案していると別のコンサルの方から伺ったこともあります。

私は二つ目の問題の方が深刻だと思います。ある程度その会社で勤務し、貢献してきた人材の給与を先に上げないと、会社の中の不満が一気に広がります。そのような人材は会社の中でも影響力が大きく、その層が不満は下の層ももちろん聞くことになります。そして、即戦力人材をみすみす手放すことになります。このような状態になっても、本当に初任給を高くして新卒を採用することを望みますか。ぜひ採用方針を振り返って頂きたいと思います。

 


キーマンの基本給を上げる方が先

原資が限られている中で、どの層に注力して人材の囲い込みをすべきか。これは重要な経営判断です。

私は、多くの中小企業において中堅層にこそ資源を投資してほしいという考えです。そして、一番資源を投資すべきはキーマンの報酬です。

私は、中小企業においてなぜかキーマンの囲い込みが弱いことが気になっています。理由の一つとして、中小企業はあまりにも「平等」「公平」を意識しずぎているのではないかと思います。確かに従業員がまだ少ないフラットな組織においては、「仲良くやる=組織がまとまっている」ことが存続の第一条件であり、そこに競争や贔屓を取り入れてしまうと組織が壊れてしまいます。では、このままフラットな組織のままだとどうなるかというと、優秀な人材の不満が溜まります。「平等」「公平」な運営をめざすと、組織の屋台骨である層を平等という枠の中に抑え込むことになります。「自分はこの会社に貢献しているはずなのに、ここでは評価されない」と感じてしまうわけです。すると、最終的にその人材は退職を選ぶでしょう。

キーマンは社内からも人望があります。そのため、「皆が慕う●●さん」が給与面で冷遇されていることは社員に筒抜けで、そんな冷遇している社長に対して少なからず疑問や懐疑心が育ってしまうことも少なくありません。キーマンが低賃金で働いてくれることに甘えていると、実はその周りの人たちがそんな会社に失望してしまうのです。

逆に言えば、キーマンの給与を上げることの効果は大きいと言えます。「会社が変わっていく」というメッセージは強まりますし、次にそのポジションに育てたい若手のモチベ―ションアップにもつながります。ポジションの重みというものが明確になり、「頑張って上のポジションにいけば、給与が高くなる」ことを示す良いチャンスです。

中小企業はぜひキーマンの報酬水準の見直しに着手頂きたいと思います。

 

 

 

人事制度は車の運転に似ている

ここ最近、「仕組み化」という言葉を目にする機会が増えています。

企業や組織は活動を継続することが求められます。継続するには、誰かがいなくなってもチームが回るようにしておかなければならず、「属人化」は大敵です。そのため、企業では属人化を解消すべく標準的な仕組みを取り入れ、誰が抜けても誰が入っても一定の品質を保ちつつ対応できるようにしようという動きが広まっています。

一見すると正しい方向に見えますが、私はここに「仕組み化」への過信を感じてしまいます。仕組みを導入しただけでは組織は動かず、結局はそれを動かす人にマネジメント能力次第で運用の良し悪しが決まってしまいます。それもそのはず、仕組みはマネジメント能力そのものを上げてくれるものではないため、どうしても使う個人の能力に依存します。仕組み化はハード面の施策のようで、実はソフト面が非常に大きく影響するということです。

人事制度はまさに「仕組み化」に該当するわけですが、ご支援する中で「人事制度が先か、マネジメントが先か」という問いを頂くことがあるので、記事にまとめてみました。

 


結論、マネジメントが先

「人事制度が先か、マネジメントが先か」という問いですが、結論から言うと私は「マネジメントが先」だと思っています。

全国の中小企業から人事コンサルのご依頼を頂く際、ご支援先の現状はまちまちです。多くは2パターンあり、①全く何もないところから人事制度を作ってほしいと依頼されるパターンと、②随分前に作った制度があるものの形骸化してしまって全く機能していないパターンがあります。

①のパターン(人事制度がない)についてもよくお話を伺うと、実は以前に担当者や経営者が独学で人事制度(特に評価)の設計を試みたり、人事制度まではいかなくても社内規範になるようなルールを作り、導入を試みている形跡があります。①②ともに「自分たちでやってみたけどできなかった」という挫折経験を経て、私のところへお声がけ頂くことが多いことが分かりました。

では、自分たちでやってみたけどできなかった要因は何でしょうか。

個人的には、多くの企業でこの挫折経験の原因特定がやや粗いように感じます。

まず、企業様から聞かれる原因は「仕組みが悪かった・古い」点です。確かにこれも原因としては考えられると私も思っています。というのも、人事制度はそもそも非常に難解です。人事未経験者が独学で人事制度を組む場合は、人事人材として専門的に労力を注ぐ必要があります。(ちなみに、我々コンサルが設計しても、設計期間は1年以上頂きます。)また、メンテナンスが必要な仕組みでもあるので、毎年課題と修正点を定点観測していないとあっという間に実態にそぐわない基準になってしまいます。歪んだ枠組みを使っていても成果が出ないのはその通りで、それ故に私も仕組みの重要性を説いている訳です。

ですが、途中まで手掛けた制度や規範を見せてもらうと、既存制度のクオリティが非常に高いので驚きます。漏れの無いスキルマップや業務マニュアル整備、売上目標の評語化、評価基準の洗い出し、手当の検討などもあったりします。私が修正をせずともそのまま使えるレベルで作られていており、驚くことも少なくありません。

では、なぜ失敗してしまうのか。それは、その企業様に「仕組みを運用できる力がないから」です。そして、この「仕組みを運用できる力」こそが、評価する側のマネジメント能力に当たります。

 


車を運転するにはドライバーの運転能力が必要

「人事制度」と「マネジメント」の関係は「車」と「ドライバー」の関係に似ているなと感じています。

人事制度を作ることは、車を作ることと同じです。要するに、ハードの設計という訳ですね。消費者のニーズに合わせてデザイナーが格好良い車にデザインすると、車の構造やしくみを熟知しているエンジニアが設計図を引き、現場では技術者たちが各パーツや素材の知識と技術を駆使して車を形成していきます。そのような専門性の集合体として、車が出来上がっています。

しかし、車が完成しても動かすことができなければただのガラクタです。車を運転するにはドライバーの運転能力が必要です。アクセルとブレーキとは何か、どのくらいの感覚で踏むと車が発進したり停止したりするのかという動作能力だけでなく、道を覚えたり、駐車場のスペースに合わせて停車したり、道路標識などのルールも覚えます。車の運転はライセンスが必要ですから、皆さん自動車学校に通って免許を取って初めて一般道で運転できるということです。

人事制度をこれに当てはめてみると、車=人事制度、ドライバー=評価者であるマネージャー、運転能力=マネジメント能力ということになります。デザイナーやエンジニアに当たる部分は自前でやる場合は人事部門、外部に発注する場合は我々コンサルタントとなります。

そして、車が欲しいと思ったら、お金を出せば買うことができます。F1に出ない人にF1カーを売るか?という問題があり、ただ眺めているだけのディスプレイ用であればそれもあり得ますが、人事制度はディスプレイするわけにはいきません。組織が小さかったり、運転者の能力が低かったりと、組織のレベルに対してオーバースペックだと判断した場合は、私は人事制度を売ることはできません。

ここでのポイントは、運転をしたことがない人は練習が必要なのと同様に、人事制度を扱うにはある程度のマネジメント能力を事前に実装して頂くことが必要だということです。卵が先か鶏が先かという話ではありますし、もちろん実践で習得できる部分も大きいと思います。もし運用していくうちにマネジメント力を向上させるという方針であれば、効果がでるまで3年は期間を見て頂きたいと思っています。

 

 


人事制度はマネジメント能力がある人が使うツール

「仕組み化」が語られるとき、その響きの中に「仕組みは自動的に動く」という感覚が含まれている気がしています。

それを指摘すると、もちろん皆さん「そんなことできないと思っているよ」という反応をされるので理屈ではご理解されているのですが、では具体的に仕組みをどのように使っていきますか?と問われると、手順や状況の場合分けがイメージがついていないのです。

私の考えとして、「人事制度はマネジメント能力の自動向上装置ではない」とお伝えしています。

人事制度は「評価制度」を以って回していきます。直属の上長と部下が目標設定→ミッション推進→評価を面談で握っておき、全社全体の相対評価を経て、確定した評価を本人へのフィードバック、という流れです。これを見ただけでもコミュケーションの機会が意図的に増えることが分かります。が、マネジメント能力のある方は必要工数だということを理解しているため、これらを既に実施しているのです。そこに標準的な実施プロセスである「仕組み」が導入されればさらにやりやすくなるでしょうし、自分なりのアレンジを加えてマネジメントすることもできます。しかし、実施していないケースでは、制度によってコミュニケーション機会を増やしたとしても、部下と何について話せばいいか分からず、雑談で終わってしまうのがオチです。

当たり前ですが、マネジメントは信頼関係によって成り立ちます。そして、信頼関係は日々の業務の中で作られます。ここで問題なのは、仕事ができる=信頼しているではないということで、現場から離れている上長(特に社長様が一手に評価を担う場合)は、評価者としての信頼という点では不足していることがあります。ここで次の手が打てているかが重要で、マネジメント能力のある人はその点に気付き、業務としての接点を日々持とうとします。これは、雑談や飲み会などプライベートな形式ではありません。上長自身の業務の手を止め、部下のために面談時間を確保し、対話やヒアリングを「業務として」行います。仕組みではなく、「上長の想いで」実施してくれるということに部下は嬉しいのです。つまり、面談の内容ではなく、面談時間を持ってくれる(自分を必要としてくれる)事実に信頼が発生するわけです。一方、多くの方はこの視点に気付けないか、気付いていても後回しにしています。ということは、いつまで経っても信頼は築かれないということです。このように、マネジメント能力は「仕組み」では自動的に向上しないことが分かって頂けると思います。

部下との信頼の大きさと上長のマネジメント能力は表裏一体です。逆に言うと、信頼を大きくする行動を上長が取っていれば、マネジメント能力は必然的についてくることになります。人事制度をうまく運用できず、悩んでいる方や企業様がいらっしゃいましたら、実は仕組みの外に要因があるかもしれないと考えてみてほしいと思います。

 

 

 

 

基本給の個性

毎回ご説明するときに困るのですが、実は「人事制度」という名称の制度はありません。一般的に人事制度とは、等級制度・評価制度・報酬制度の3つの制度を総称してそのように呼びます。

「自社独自の人事制度を作りたい」と考える会社は多いように感じますが、では各社の独自性はどこに出るのでしょうか。設計の際に、カスタマイズしなければならない部分はどこなのでしょうか。

私は報酬制度、特に「基本給」に個性が大きく出ると思っています。

基本給の構成は各社によってこんなにも違うかという特徴があり、非常に面白いです。例えば、大卒初任給が基本給20万スタートという会社が2社あったとしても、基本給の構成要素(どのような要件で昇給していくか)が全く異なるのです。そこを押さえて制度設計することが重要だと感じたので、記事にしてみました。

 


基本給には各社の個性がある

改めて基本給の定義を見てみます。

基本給とは、給与・賞与・退職金計算のすべてのベースとなる基準賃金のことで、個人の労働の対価として会社から支給されます。労働契約は、会社と従業員がこの等価交換のやり取りをすることを契約しています。因みに、役職手当や住宅手当のように個人の状況に応じて支給する手当は該当しません。

労働の対価ということは、基本給は対象者の従業員としての労働レベルを示すことになります。労働レベルとは、単純に作業レベルのみならず、その会社への貢献度合い、重要人物度など、その会社独自の基準を含んでいます。新入社員の基本給が低くて重役の基本給が高くなるのは、「重要人物度」の差が基本給に反映しているためと言えます。

そしてこの「重要人物度」というのがポイントで、どういう人物を「重要人物」とするかという基準こそが人事制度の根幹であり、基本給の個性となる訳です。

この基準は会社ごとに異なります。いわゆる年功序列の基準、つまり年齢や勤続を重視する企業であれば、新卒でその企業にずっと勤めている人と中途入社で入ってきた人とで基本給が異なるでしょう。近年多くの企業で取り入れられているジョブ型人事制度は、ポジションや部署役割に重要度を割り振り、基本給を変えていこうと言う仕組みです。また、転職者においては前職の年収も基準の一つになっています。これは、前職での「重要人物度」を次の会社でもある程度信用して引き継ぐということになります。

自社にフィットした人事制度を作る場合、基本給を読み解いてみるとその会社のことがよくわかります。労働の対価としてどのような基準を重要視しているか、ここを無視して新しい制度を作ることはできません。一方で、自社のみで人事制度を構築・刷新しようとする際に、この基本給の個性を意外と見落としがちです。その会社にいる人にしてみると、当たり前の基準すぎてそれこそが人事制度のセンターピンであることに気付けないのです。

人事制度を作るか、もしくはメンテナンスする際は、基本給の基準を読み解いてみることをお勧めします。

 


年功序列と評価給

基本給に個性があることがお伝え出来たところで、具体例を見ていきたいと思います。

まず、先ほども挙げた例として、大卒初任給20万スタートの会社が2社あったとします。両者とも同水準かなと思いきや、基本給の構成要素が下記の通り異なっています。

 A社… 基本給(20万) = 年齢給 + 役職加算

 B社… 基本給(20万) = 等級 + 評価給

この基本給の構成要素は残念ながら求人票にも出ていませんし、社内でも公表していないことも多いため、数年働いてみて昇給を観察してみたいと分からないところではあります。(面接で質問すれば答えてくれるかもしれません)

A社の場合、まずスタートの基本給は年齢で決まります。新卒も中途もその基準は変わりません。若手時代はほぼ一律で基本給が上がっていき、若手時代は同年代で差がつきにくいしかけです。いわゆる「年功序列」は年齢給のことで、年齢に応じて毎年昇給していく制度のことです。どのレベルの従業員でも平等に歳を取りますので、良く言えば一般社員でも全員毎年の昇給していく、悪く言えば能力や貢献の高低に関係なく基本給が決まってしまいます。しかし、A社事例ではここから差がついてくるのは役職に就いてからで、役職に応じた加算があるため、昇格するとぐっと基本給が上がると予想できます。「年功序列」というとあまり差がつかないイメージかもしれませんが、年齢給と役職加算の比率や役職加算の金額傾斜によってはかなり差をつけることもできます。

一方、B社は年齢に関係なく、スタートの基本給から等級と評価によって基本給が上がっていく仕組みにしています(スタートの基本給の決め方は年齢・前職・既存社員とのバランスなど)。この基準では、等級制度できちんと等級・役職の役割を決め、担える人物かどうかを見定めて基本給を昇給させていくことになります。どの年齢の人でもやる気と実力があれば評価し、基本給を上げていく姿勢が表れています。しかし、こちらも気を付けなければならないのは、一見A社の例に比べると評価が入ってくるので成果主義に感じるかもしれませんが、結局等級制度が機能していないとどうしても年功的に上がっていってしまいます。どのくらい制度運用がうまくいっているかは厳密にチェックしなければいけません。

どちらの基準でも、昇格者の厳選が重要です。「年功序列」の一番の課題は、年齢が来たら一斉に昇格する昇格基準(等級定義・役職定義)にあり、せっかく基本給の構成に役職加算を入れていたとしても、等級制度の運用が甘いと報酬制度ではコントロールできないケースも多くあります。

下記に昇給イメージをグラフにしてみました。こうすると一目瞭然で、基本給が同じ金額だった時点を切り取って比べても、その基本給がどのような構成要素を持っているか調べてみて初めて個性が見えてくるのです。

 

 


中小企業は基本給に個性を出すべし

先日、ご支援先の企業様で組織分析が終了し、年に1回の経営者方針説明会でその結果を社長様から発表して頂きました。

その中で、評価制度について深く言及して頂き、今後は求める人物像(=人事ポリシー)に当てはまる人をきちんと評価していくことを宣言して頂きました。従業員面談の中で、社員様からはこの会社で頑張りたいという前向きな発言とともに、報酬についての要望が数多く挙げられていました。そのため、今回の方針説明の内容は社員様の心に非常に響いたことと思います。この会社でもう一歩頑張っていこうという火が灯るのです。

直近の最低賃金と初任給高騰の影響で、どこの企業も原資の捻出とベースアップでの還元に必死です。2025年度の東京の最低賃金は1,226円、前年から63円も上がっています。

企業においては、原資が無限に出てくるわけではありません。全員一律のベースアップとは別で、昇給する部分・減給する部分を明確にしておかなければ原資はいくらあっても足りないでしょう。そのため、報酬制度を見直すことで根拠もなく人件費が高騰してしまうことを防ぐ必要があります。ここについては、また別のブログで解説したいと思います。

何を持って基本給を昇給させていくか、経営者の皆様には今一度考えてほしいと思います。それはつまり、従業員に何を求めるかと同義語です。他社や社会の基準からずれないように設定したいのか、特有の尖った基準を設けたいのか、そこに各社の価値観が反映されます。報酬制度の構築は自社の個性を磨く工程だと考えてもらえればと思います。

そして、個人的には、中小企業は大企業に比べて個性を出しやすいと思っています。反対に言うと、個性を出さないと隣の同業他社との違いが従業員に伝わりづらく、だったら転職して別会社に行けばよいという発想が生まれてしまいます。その会社にしかない基準で基本給を上げていくことができれば、従業員はその会社で評価されることが特別なことになります。他社で再現することはできません。それこそが、その会社でずっと働き続けたいと思える理由になりうると私は思います。

また、先述のとおり、今後はできる人・頑張る人を上げていかなければ将来を担う従業員が勤続することは難しいでしょう。評価制度と組み合わせ、その結果を評価給として給与に反映させることで、やる気のある従業員を逃がさないほしいと思います。

 

書籍紹介(「学習する組織」入門」(小田理一郎))

■書名:「学習する組織」入門

■著者:小田理一郎

■出版社:英治出版

■どんな人向けか:複雑に絡み合う組織内の相互作用を整理したい人、組織改革のレバレッジポイント(てこ入れするポイント)を見つけたい人

 


「学習する組織」(ピーター・M・センゲ)が発売されて10年以上経過していますが、未だに本屋さんで平積みになっています。組織開発のバイブルとして紹介されており様々なところで見かけますので、手に取られた方も多いのではないでしょうか。

本書はその「学習する組織」の入門編として噛み砕いて説明されている本です。本家は非常に難解であると聞いたことがありましたが、こちらは分かりやすかったので入門編を読んでから本家の方を読まれるのがいいのではないかなと思います。

我々は組織について話をするとき、人格を持った一人の人間のように話をします。「あのチームはモチベーションが高いよね」「あのチームはまとまりがないから駄目だ」、そのような評価は一度は耳にしていると思います。その人格を紐解くと、実は所属する一人一人のメンバーの行動や性格の集合体で、それらがお互いに作用し合っている結果が「組織の人格」を形成していると気付かされます。

本書の表題に関して、組織が「学習する」という表現が面白いと思いました。個人の集合体である組織が、まるで一人の人間かのように、組織は過去の出来事を吸収して未来に成長していけるのでしょうか。

 


学習する組織になるための要件

私は組織論について、理論と現場でのギャップを毎回感じています。

まず、「学習する組織」という題目から、理論上は「優秀な組織は自発的に学びだす」と認識してしまいそうになりますが、私の経験上、自発的に学びだす組織は本当にごく僅かです。つまり、一般的な現場では何もなければ停滞していることの方が多いように思います。組織は、学習を欲する環境に組織が置かれない限り、動き出しません。

では、学習を欲する環境はどのような状況か。

上記のとおり、企業や組織を一人の人格のように捉えることが面白いという話をしました。人がどのようなときに学習せねばと感じるか、また知識や技術を身に付けるために本腰を入れられるかというと、「必要に駆られたとき」だと思います。

一方、組織が必要に駆られて学習するタイミングは2つあると思っています。1つは「メンバーが「自分がこの組織リーダーになり得る」と感じているとき」、もう一つは「組織が潰れそうなとき」です。この状況のどちらに自分の組織が近いか、まずは捉えてみて下さい。あるいはどちらにも当てはまらなければ、その組織は学習するフェーズではないと思います。その場合は、そのタイミングまで組織を誘導する必要があるので、環境づくりから始めるべきと思います。

 

次に、本書では組織に必要な学習能力として以下の3つの要素を挙げています。

(参照:「「学習する組織」入門」(小田理一郎)を基に作成)

 

個人的には、ここで補足が必要かと思っています。この3つの学習能力は、一人で醸成できるものではないように思えるからです。本書を読んでやる気になったメンバーが一人で奮闘しても、組織内に広まっていきません。特に、「1.志を育成する力」と「3.競争性に対話する力」はリーダーの働きかけが非常に重要になります。そのため、いきなりこの3つの要素を取り入れいることはできず、まずはリーダーがこの3つの学習能力を持っているか、持っていなければ研修などで外部からてこ入れをすることになります。

一方、「2.複雑性を理解する力」についてはある程度自己学習が可能だと思います。本書はその手助けになる考え方を教えてくれています。

 

 


複雑性を理解する力(システム思考とループ図)

この本の中で、初めてシステム思考とループ図を知りました。

システム思考とは、「ある事象が因果関係の連鎖によって、表面的には何も関係なさそうな事象を引き起こす」ことを考えることで、ループ図はその流れを見える化する図式です。絡み合う事象同士を構造の問題として書き出して繋げ、全体像を見てみようということです。

例えば、本書ではネガティブは発言が組織の雰囲気に悪影響を及ぼす事象について、システム思考とループ図を用いて説明しています。

(参照:「「学習する組織」入門」(小田理一郎)P.125 を基に作成)

 

この分析の良い点は、要因同士の「ループ」を浮き彫りにできる点です。

その事象の一つ一つは前の事象の結果であり、次の事象の原因になっていて、因果がぐるぐる回っています。そして、好循環・悪循環という言葉があるように、ループは良い方向にも悪い方向にも螺旋状にブーストが掛かります。

私個人の話ですが、実はブレストがあまり好きではなく、頭の中を整理できた試しがありませんでした。ブレストは「点」での洗い出しなので、作用の流れやどのように周辺へ影響しているかは一旦置いておくことになります。そのため、一つの事象を箇条書きで出したとしてもそれは氷山の一角を出しているだけで、根本原因まで到達できる気がしませんでした。会議や打ち合わせでの議論も同様に、関連性を無視した論点一点突破の話し合いでは、いくら時間を割いたとしても無駄に終わってしまっている感覚がありました。その点、ループ図の考え方は非常に納得することができました。

さらにもう一つ、ループの中にループが入っている(ダブルループ)になっている点も重要です。

添付のループ図でいうと、シングルループは「ネガティブ発言の数」→「メンバーのネガティブ発言への意識」→「ネガティブ発言の数が増える」・・・・という部分です。見て頂くと分かる通り、シンプルループは個人~少人数での活動であり、シンプルな事象に絞ったループです。

しかし、ここで言えることは、そのシングルループはさまざまな外的要素に影響を及ぼしてしまうということです。添付のループ図でいうと、シングルループ内で回っているはずだった「メンバーのネガティブ発言への意識」から派生し、「メンバーの無力感」、そして「できていないことの数」が増え、「ネガティブ発言が増える」という外側のループへと移行しているのが分かります。これがダブルループです。

そして、本書の本題である「深い学習サイクル」はダブルループになっていると言います。

例えば、P→D→C→Aは典型的なシングルループです。トライアンドエラーをぐるぐる回すことで、プロジェクトや作業を効率や質を高める(あるいは低下していく)活動になります。ですが、その活動は個人で完結するものではなく、そこからプロセスや結果がチームに影響・貢献し、広がっていきます。ということは、P→D→C→Aのシングルループのその外に2つ目の組織全体ループが存在しているということです。

前述の組織の学習能力で挙げられいた「2.複雑性を理解する」については、この2重のループを用いて自分のチームのシステム(構造)を知ることで、組織開発に大いに活かせると思います。私は組織は構造が7割だと思っています。構造が絡み合った状態の組織では、どんなに「1.志を育成する力」と「3.競争性に対話する力」を育もうと思っても機能しません。そういった意味でも、システム思考とループ図で構造から捉えることは重要だと思います。

 


システムの抵抗とレバレッジポイント

「学習する組織はダブルループ」という話が出ましたが、ダブルループであることによる弊害というものがあります。

まず、組織改革で必ずと言っていいほどぶつかる壁は「メンバーからの反発」だと思います。

ここで重要なことは、変化や行動のパターンに影響を及ぼしているものは「構造(システム)」だということです。

システム思考の重要な原則は、構造がパターンに影響するということであり、構造を変えないまま結果やパターンを変えようと資源や努力を投入しても、システムの抵抗によって結果が相殺されたり、かえって悪化したりしてしまいがちです。つまり、複雑なシステムにおいては、構造そのものを変えない限り、パターンを変えることは難しいのです。

(「「学習する組織」入門」(小田理一郎)P.157)

本書でも「システムの抵抗」という考え方が解説されています。

下記の例は、溜まっている仕事がなぜなぜなくならないかという議題をループ図に起こしているものです。「仕事をこなすことで評価や信頼が上がる」という一見良い事象がループを発生させています。しかし、このループがブーストすればするほど、この方へ依頼される仕事の量は上がっていきます。好循環がバランスを崩すことがループ図を描くとよくわかります。

では、この課題をどう解決するか。一定内の仕事は業務時間内に終わるでしょうが、終わらなかった業務が消えるわけではありません。そのため、一般的には残業や休日出勤といったプライベート時間の投入により残務消化していくことになります。しかし、時間は有限ですし、法令の問題や体調面もあるため限界が訪れます。すると、そこからまた仕事が溜まっていくということになりますので、システムの抵抗ループが仕事を依頼されるというループをストップさせる形になります。

(参照:「「学習する組織」入門」(小田理一郎)P.153 を基に作成)

 

ということで、組織の改革には構造(システム)へのアプローチが必要であり、システム思考とループ図が役立つことが理解できます。

そして、もう一つ重要な考えは、レバレッジポイントです。

レバレッジポイントとは、組織改革のてこ入れ箇所で、まさにてこの原理(レバレッジ)の力点のような部分だと思います。できる限り小さな力を力点に送り、作用点に最大の効果発揮させるということです。本書では、レバレッジポイントの探し方として下記が掛かれています。

1.物理的な構造(ストック、フロー、リードタイム、バッファなど)

2.各ループの相対的な強さ

3.情報の流れの構造(誰が、いつ、どの情報にアクセスできるのか)

4.制度上の構造(目標、ルール、インセンティブ、罰則など)

5.組織に所属するメンバーの心情(メンタルモデル)

(参照:「学習する組織」入門(小田理一郎)P.160~162)

ということは、組織開発をする上で、上記5つについて分析しなくてはいけません。ずれたレバレッジポイントに対して施策を実施してしまうと、大きな労力を使うとともにメンバーからの信頼を失ってしまうことと思います。

 

以上、私が本書を読んでみて勉強になった点や気になる点をまとめてみました。

学習する組織の要件である「1.志を育成する力」「2.複雑性を理解する力」「3.競争性に対話する力」、これら3つの要素は椅子の脚に例えられており、一つでも欠けると椅子として立たせることができないと本書に書かれています。私も組織は構造で決まるという考えですので、今回重点的に取り上げたシステム思考とループ図は構造分析に非常に有効だと感じました。

組織の構成メンバーが増えるほど、ループする事象も増えていきます。本書を読んで感じるのは、「学習する組織」はシンプルな構造の中で生まれるものだと思いました。そのため、複雑な事情を持つ企業トップや組織リーダーは、それらを紐解き、整理することが今後ますます求められていくことと思います。

 

等級制度は人材育成の概観図

人事制度構築は、まずは等級制度から

支援先の企業様にて、等級制度が完成しようとしています。

80名規模の会社ですが、今まで役職すら曖昧だったというこちらの企業様に等級が入ることは非常に大きな変化であり、ここから100名超の組織へ駆け上っていく下準備と言えると思います。組織が壊れる前に人事制度の構築に着手しようとしているこちらの企業は経営を本当によく考えられていると思います。

一般的に、人事制度と言うときは等級制度、報酬制度、評価制度の3つの制度を指します。そして、人事制度を一から作る際は「等級制度」から作っていきます。

皆さんが一番イメージしやすいのは「評価制度」だと思います。上長と目標を決め、その目標の達成にむけて査定期間中に取り組み、査定期間終了後に上長と評価をすり合わせる。各上長が査定した評価は、全体会議にかけられ社内で相対的な調整が入り、評価が決定する。この評価制度のプロセスをやっている方も多いのではないでしょうか。

そのため、「まずは評価制度から」と評価制度構築についてご連絡頂くこともあるのですが、私は、評価制度は一番最後に決めた方がよいと考えています。人事制度の根幹は「等級制度」であるため、等級がない状態で報酬や評価の仕組みをいじると制度の一貫性が保てなくなります。いくら人事制度が設計3割、運用7割と言われているとしても、この等級制度に限っては設計ですべて決まると言っても過言ではないため、人事制度の起点であり根幹となるわけです。

以下が人事制度設計のフローです。

等級制度・報酬制度は事前設計によって決まるもの、評価制度は運用と定着が必要なものであり、両者の性質は少し異なることが分かって頂けると思います。

 


自社の育成ステップをどこまで解像できるか

では、どうやって等級制度を作っていくか。

「等級」とは、その会社のステップアップする階段です。新卒で入社した者が役員になるまでどのようにステップを踏んでいけばよいか、各等級での役割、次の等級に上がるための要件といった階段を上がるための条件を決めていきます。そして最終的には、どのような人材が役員に就任できるのかというところまで構築します。(これを従業員にどこまでオープンにするかは別議論が必要です。個人的にはすべてオープンにしても問題ないと考えていますが、組織の事情によっては一部オープンにしていきます)

ということは、構築のために必要な作業は「洗い出し」と「組立」です。

洗い出しでは、①従業員の現状のレベル ②業務・タスク ③階層と部署 ④マネジメント層 この4つの観点から抽出を行います。この4つの分析ポイントは、等級が組織と業務に密接に関わっていることから私が設定しているものです。

①は人事制度導入前の事前準備の段階で従業員面談を実施しますので、そこでインプットにすることができます。

意外と忘れがちなのは②かと思います。今、全社の中にどのような業務・タスクがあり、どの部署が担っているのかを洗い出します。こちらもアンケート、必要に応じて面談でのヒアリングとなります。業務・タスクは取り組んでいる本人しか分からないため、聞いて回るしか情報を集める方法はありません。

③④は組織に関わる部分です。階層と部署は②で集めた業務がどのように全社の中で散らばっているかを見てみます。具体的に取り組んでいる担当者と紐づけてみると、業務のレベル・難易度が分かります。すると、コア部署に本当に重要な業務が配置されているか、分担が上手くいっているかというところが見えてきます。④は現在のマネジメント体制について確認します。組織の要はマネジメント層です。③の業務分担がどのようにチームへと枝分かれいているか、末端の従業員までしっかり指示や分担が落ちているかという指示系統を見ます。部署によりマネジメントの難易度が異なるケースもあるでしょう。

このような情報をつぶさに集めてから、初めて等級を組み立てることができます。

組立では、役員までの成長ロードマップを描きます。ただし、現在の状態からかけ離れた夢物語な等級を組むことはできないため、プロジェクト内で慎重に確認しながら組み立てていきます。役職と等級の組み合わせも重要になりますので、どこで昇格地点がくれば従業員のモチベーションにつながるかを想像していきます。しかし一方で、現状通りの等級をそっくりそのまま組み立てても組織の成長につながらず、意味がない訳です。この現状と理想の間を取った微妙な塩梅でビジョンまでの成長を描くことが等級構築では求められます。

等級制度とは従業員の成長概観図です。

上長から見た時には人材育成の概観図になります。両者が同じ地図を広げることで、成長と育成の方向性や課題認識がずれないようにできるということです。

 

人事制度の構築に現場見学は必要?

先日、ご支援先の企業様にお願いし、1.5時間ほどかけて現場見学させて頂きました。

当初、企業様側では事業現場の見学は想定されていなかったようで、私からの依頼も少々驚かれていたようでした。「人事コンサルがなぜ作業着を着て作業場へ?」という戸惑いを感じましたが、私にとって現場は事業そのもの、従業員の皆様の働き方や連携を見ることができる最重要ポイントです。

なぜこのようなお願いをしたかと言いますと、私の前職が物流会社だったことが大きいと思います。

入社当時から、「現場に行け」「現場をしっかり見てこい」と何度も上司から言われてました。メーカーのように商品があるわけではなく、サービスや作業工程を売っている事業において現場は非常に重要視されます。そこで発生する作業そのもの(付加価値)が商品で、現場が売上を上げる場所だからです。

そこで繰り広げられている日常は、フォークリフトが走り回り、怒号に近い連携の声が飛び交う場所。私たち人事部門が本社ビルの中で一日を終えるのとは全く別の世界があります。人が現場に行かないと終わらない、拘束時間が長い、人と人とが顔を合わせて話さないと解決しないなど、社会行動学の塊のような場所です。

今回の現場見学においても、多くの気づきがありました。

 


事業現場の「物理的距離」が評価を狂わせる

現場見学ではまず人の配置と接点、業務の流れを見ます。

今回の現場は、狭い場所に多くの機械と薬品が配置されていました。人の配置は機械の配置に依存しますから、同じ部署であっても担当する作業機械が違う階にあれば、顔を合わせる機会はぐっと減ります。端らから見ると簡単に作業しているようですが、実は熟練の技が必要な工程ばかりだそうです。そして安全の徹底。機械や薬品による事故や労災と隣り合わせの職場で常に安全意識が要求されるのですが、人間不思議なもので隣に劇薬が置いてあっても慣れてきてしまう。きっと私も1週間と立たずして気の緩みが出てしまうだろうと考えていました。

このような場所で、日々作業をしている従業員の評価基準は何でしょう。

どのような目標を立て、どのように上司と部下が目標達成にむけたコミュニケーションをとればよいでしょうか。一つの工程に一人の作業員ということは、上長と同じ作業場にはいません。その状態でどうやって評価をすればよいでしょうか。

これは、IT企業のように現場を持たない企業でも同じ観点を持つ必要があります。従業員がパソコンに向かって作業するオフィスフロアや会議室が「現場」であり、そこで作業のような付加価値やプロダクトが生まれているのです。

立地、間取り、環境が違えば人と人との連携の仕方が変わります。コミュニケーションの取り方が変わります。情報の伝達方法やスピードが変わります。同業他社で同じ事業をしている企業同士を比較しても、もしくは同じ企業内においても、全く異なる組織運営がなされているという意識を持ちます。

評価基準とは、日々作業している中で出現するコミュニケーションなのだと思います。技能検定のように個人の能力を測る試験は別ですが、基本的には人がいるところに評価基準が存在します。

例えば、管理職の評価基準として「リーダーシップ」や「業務遂行力」を設定したとします。「リーダーシップ」は部下や後輩がいて初めて露見されますし、「業務遂行力」は発注した企業からのニーズを受けて社内の人材リソースに作業を割り振り、最後に統合して納品するのですから何人もの人が絡み合っていることは想像に容易いでしょう。

つまり、事業現場を生で見ることの意義は、どこに人との接点が発生しているのか、調整はしやすい状況なのかを確認することが一番大きな意義だと思います。

 

管理職の大降格時代を考える

管理職ポスト保障時代の終焉

先日、日経新聞を読んでいたところ、このような記事を見つけました。

「管理職に大降格時代 スキルないと2軍、でも実はチャンス」

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC288QD0Y5A120C2000000/

管理職の大降格時代、なんとも怖ろしいタイトルですが、実際に私も前職では48歳以上の管理職を対象に早期退職制度を実施していましたし、私自身も管理職降格の仕組み作りに携わっています。

10年前と比べて、管理職というポストの在り方が変わったように感じますが、その変遷について追ってみました。


管理職に昇格する=生活の保障だった

大企業では、過去の年功序列体制により、膨らみに膨らんだ管理職のやりくりに頭を悩ませています。

私も前職がプライム一部上場企業でしたので、状況はよくわかります。現在の大企業では、人員の適正構成と一般的に言われているピラミッド型(年齢層が上がるほど役職のポスト数が減る)にならず、管理職よりも一般社員の方が少ないケースも多く見受けられます。一人の一般社員に対して複数の管理職が作業員の取り合いになり、指示があちらこちらから出される。一体だれの指示を聞けばいいのだろう、若手社員の疲弊はもはや当たり前になっています。

日本の管理職が増えてしまった要因として、給与の支給基準が変化したことが挙げられます。

一昔前まで、給与は「生活給」「勤続給」という性質が強くありました。年功序列という考え方はまさに「生活給」をベースに報酬が設計されており、40歳男性であれば家庭があり子どもが2~3人いることを想定します。中学生くらいになり、学費も高くなるころだろう。一般的な生活のロールモデルが描きやすいですし、従業員の大半はそのロールモデルの通りのライフスタイルだったというわけです。

給与が生活費という側面を抱えている以上、会社側にも従業員の生活を保障する責任が発生します。そのため、会社側もよっぽどのことが無い限り、管理職のポストを用意します。そうなると永久的に管理職が増えていくことになりますが、若手が大量に採用できた時代はいくら管理職がいても困らないとも言えました。

毎年大量に入ってくる新人に対して、現在のような手厚いサポートもないため、即戦力になるまで時間が掛かる。管理職が多数いれば、パフォーマンスの上がらない若手を大量に抱えていても部署の実績をあげることができます。日本の新卒一括採用を支えていたのは、一般社員の仕事を一人でかつハイクオリティで対応できる管理職で、その方たちは一定数必要でした。

つまり、この時代の管理職に求められることは、同じ仕事をハイクオリティ(職人的・正確・早い・顔が利くなど)で対応できるようになることだったのです。

 

日本全体での人事異動

上記の日経新聞の記事で述べられている「管理職降格時代」。

生活給としての管理職ポジションは一転し、全員が管理職に就ける時代は終了しました。

現在、人材の価値は転職という名の市場に委ねられています。転職では、個人の持つ「能力」「経験」「役割」が切り売りされ、その希少性・汎用性の高さに比例して需要が増し、高い給与が払われるようになります。会社側は従業員と外部採用候補者のレベルを比べることができる。従業員は、社内ではなく社外の人(他の会社で「能力」「経験」「役割」を身に付けた人)と戦うことを余儀なくされているのです。

日経の記事によると、大降格時代は日本にとって「チャンス」だと言います。

それは、中小企業やスタートアップなど、ここから拡大・発展しなければならない企業において、大企業で培われた高い専門性は喉から手が出るほど欲しいからです。大企業で降格になった、あるいは早期退職に引っかかったからといって知識や経験を腐らせてしまうのは、日本としては非常に痛手です。本人的にも降格してまでも大企業に居続けるより、いっそ環境を変えるチャンスと捉えるほうが良いと記事は述べていました。

私もこの意見には賛成です。労働力がますます減少する中、さらに効率的に生産することを求められる日本にとって、日本全体での人事異動はてこ入れしてでも実施すべきでしょう。

個人の人生を見ても、この日本全体での配置転換の流れに飛び込めた方が幸せなのではないかと思うのです。つまり、今までは一度管理職に上がってしまえば、能力が頭打ちになった人材も窓際族として高給が保証されていたところから、その保証が外され降格・降給が当たり前になるのです。それであれば、同じ規模の給料になることが目に見えているのですから、必要とされる場所へ移った方がよいのではないでしょうか。

私がご支援する中小企業においても、大企業での経験やノウハウを欲していることをひしひしと感じています。(だから私のようなコンサルタントへ発注がある訳です)

例えば、前職が大企業の子会社役員や管理職だった人材が定年後に再雇用先として地元の中小企業へ転職しているケースは本当によく見受けられます。定年前に転職に慣れていた方ばかりではありませんが、自分の知識や技術が活かせる環境に60歳過ぎてから身を投じ、活躍されています。

条件があるとすれば、そのような人たちは自分の培ってきた技術や知識に絶対的な自信があります。そして、その技術や知識を横展開できるように言語化し、マニュアルに落とせるレベルまで標準化されています。理想的なレベルの新しく就職する企業の改善点を見つけ出し、臆せずに行動や発言をされている印象があります。これはおかしいよ、これは変だよ、こういう風にやっていこうよ、と問題提起されています。

あるいは、黙々と個人主義で働くということもできます。大企業に居る限り、どこまで昇進したとしてもマネジメントされる側から逃れることはできません。それが、中小企業へ移ることで自分の作業だけに集中する(個人プレーポジション)で働くこともできます。高い専門性とスキルがあるため、それが許されるのです。また、私は、社長の右腕や二番手ポジションが性に合っている人は意外と多いと思っており、そのような自分に合った働き方も叶うようになるのです。

組織はその大きさや事業のレベルに応じて必要な人材が変わっていきます。日本という国を大きな企業と見立てた時に、今まではマンパワーをかけて成長してきた、それがここからは少数精鋭で利益を出していかなくてはいけなくなるのですから、いかに国全体で効率のよい人員配置できるかがカギとなります。今まで大企業が手放さなかった人材が、この大降格時代に放出されるようになったこの状況を「大降格時代」と悲観せず、日本の人事異動として捉えられたらより発展するだろうと思います。

トップダウンとボトムアップ

トップダウンvsボトムアップの論争

人事制度を導入するために組織診断をしていると、トップダウンとボトムアップという話にぶつかります。これは、組織の「血流」をどこで止め、どこで流すかという設計の問題です。どちらが良いというわけではなく、必要な部分に必要な手法を使えているかという話だと思ったので、まとめました。

 


「自称トップダウン」な中小企業の意外な真実

ネガティブな社風として、現場の従業員様から「当社はトップダウンだ」というお話をよく伺います。

確かに中小企業では社長と従業員の距離が近いため、心理的にそのように感じることは多いかもしれません。社長の指示がダイレクトに個人に向かうことは大企業ではあり得ないことで、良くも悪くも受け取る側からしてみると言葉の重みは大きいものがあるでしょう。

また、一挙手一投足社長に見られてしまうわけですから、それでは従業員が息苦しくなるのは非常に理解できます。特にコア事業は社長の一番の得意分野であることが多く、社長の考えが色濃く反映されることは間違いないです。社長がいちいち口を出してくる、新しい取り組みを潰されるといった状況に従業員が疲弊してしまいます。

しかし、大企業と比べると、実は中小企業は現場の裁量が大きいように思います。小さい会社では、担当範囲を細分化することができないため、社員一人一人がある程度広い範囲を担当しなければなりません。社長も現場のことは意外と分からないことも多く、そうなると一定の権限の範囲内であれば、自由に動き回ることができます。

一方、上場企業は社長を中枢とした強烈なトップダウンです。各部署における業績ノルマの達成/未達成は厳しく評価され、優秀かどうかは噂が一気に回ります。加えて、フジテレビの件が分かりやすいですが出世競争や社内政治も蔓延し、トップの意見を確実に実行できる人材(イエスマン)が権力を握っていきます。人事権も社長にあるため、意向に沿わない人は異動させることで辞めさせずともその人材を組織から外す(いわゆる左遷)ことが可能です。

その点、中小企業においてはブラック企業を除き、中小企業でここまでの強烈なトップダウン組織は作りにくいと思います。まず、部署が少ないので人事権が効きにくく左遷ができない。さらに、現場は従業員が取り仕切っているため辞められては困る。無意識だとは思いますが、それを逆手に取った方はある場面では社長よりも発言権が大きくなったりもしているとお見受けしています。

中小企業の社長の皆さんは、会社を大きくしたいと考えていると思います。それはつまり、組織をさらにトップダウンに変えて締めていくという意味になります。しかし、従業員は現レベルでさえもトップダウンに対してアレルギーがある。ここをいかにして突破できるかを考えていく必要があります。

 


ボトムアップは自然発生的には生まれない

従業員の方から「当社はトップダウンだ」というお声と同じくらい聞かれるのは、社長様からの「当社はボトムアップは無理だ」というお話です。

社長様の立場からしてみると、「自分が指示をしないと従業員は何も動かない」と感じられています。ある意味その通りで、企業は社長が一番熱量を持っている組織体です。そのため、理論上は社長の期待以上に働いてくれる人はいないことになります。

しかし、ここで問題なのは、社長の立場からは現場が見えなくなっていることです。立場が上がると経営的視野が広がり、未来の事業計画を立てることになります。と同時に、視座が高くなった分、足元が見えなくなるのです。

例えば、なぜ退職者が止まらないのか、自分の方針がなぜ末端まで届かないのか、なぜ組織がまとまっている感覚がないのか。何か組織内に問題があるはずだが、同じフロアにいる従業員の様子が社長からは分からないというわけです。

それは、トップダウンオンリーで閉塞的な雰囲気になってしまっていることが一因かもしれません。組織拡大のためにさらなるトップダウン体制を作っていくことは必要ですが、ボトムアップ要素を入れておかないと組織は息ができなくなり、従業員は働く場所としてその企業を選ばなくなります。

ボトムアップは自然発生的には生まれません。そのため、意図的にボトムアップを取り入れる必要があります。ボトムアップが根付くことで社風も変えていくことができます。

 


ボトムアップが成立する条件

では、ボトムアップはどのような条件で成り立つのか。

私は「①トップからの問いかけ」と「②汲み上げる場の設定」が条件になると思います。

様々な組織を見てきましたが、①②それぞれ実施されているケースは実は非常に稀です。①の「トップ」とは社長様だけを指しているのではありません。リーダー(管理職)→メンバー、さらに下位組織でも主任・係長→後輩も当てはまります。小さなユニットになっても同じように①②が実施できて初めてボトムアップが可能な組織と言えます。

そして、この①②を作るところからボトムアップでやらせようとするリーダーが非常に多いですが、①②を下位の立場の者が作ることはできません。

ボトムアップはトップの熱量から始まります。トップが本気で皆さんの意見を聞きたいかどうか、従業員には透けて見えてしまいます。ボトムアップが自然発生的に生まれない要因はまさにこれで、求めるだけではだめだということです。

言い換えれば、トップの熱量があればボトムアップの組織に変えていくことは可能で、上手くできていない場合はこの「①トップからの問いかけ」と「②汲み上げる場の設定」を改善すればよいだけだと思います。ここは研修や伴走次第でいくらでも実施を促すことができます。

そして、人事制度(特に目標管理による評価制度)はこのボトムアップのネックになる条件を乗り越える一番よい手法です。人事制度を導入することで、①②が組織のルーティンワークとして入り込み、コミュニケーションの量は格段にアップします。(ただし、そこに質が伴うかはリーダー教育が必要です)

現在ご支援中の企業様では、評価のみならず組織体制を整えるための人事制度を導入すべく伴走しております。