2026年10月12日
10月になり、最低賃金が更新されました。
2026年改定は全国平均で1,177円(前年度から56円引き上げ)、東京都は1,280円(前年度から54円引き上げ)ということで、例年に引き続き大きな上げ幅です。
2026年最低賃金
私の支援サービスである「人事制度」は等級制度・報酬制度・評価制度の3つの制度を連動させるものです。その中に「報酬制度」が含まれていますので、支援先の企業様とは最低賃金の動向に合わせて報酬設計・賃金バランスの最終調整があり、8月頃から議論が白熱していましたが、ようやく落ち着きました。
どの支援先も、報酬制度が入る前は「何となく」賃上げをしていたといいます。しかし、これが組織を崩してしまう(離職で従業員が去ってしまう)原因になっていると私は感じています。
一見従業員のためにみえる賃上げがなぜ組織崩壊の原因になってしまうのかを今回の記事でまとめました。
賃上げは「全員を同じように評価する」というメッセージになってしまう
賃上げ(ベースアップ)とは、従業員が一律で基本給が昇給する方法です。
職位や地域によって差がつくことはありますが、全社で標準金額を決め、その金額分はほぼすべての従業員の基本給が上がります。
では、なぜ賃上げ(ベースアップ)を実施するのでしょうか。
賃上げ(ベースアップ)実施の理由は、物価上昇と最低賃金上昇に伴い、報酬水準が引き上げられるからです。どのくらいアップするか、上がり幅は業績によって決まります。
経営者にとっては「賃金を上げる=人件費が上がる」ことですから、身を削るような思いで昇給を決定されています。労働分配率などを計算し、黒字倒産にならないように慎重に検討を重ねます。「うちの会社は毎年昇給してきた」「従業員に還元したい」という社長様の想いがこの賃上げ(ベースアップ)に反映されているのはその通りと思います。
しかし、折角賃上げ(ベースアップ)しても従業員にその社長様の気持ちが伝わっていないのです。
これが社長様と従業員の溝を深めています。「賃金を折角あげたのに、従業員が納得していない」「なぜかやる気があがっていない」と悩まれている社長様は多くいらっしゃいます。
この溝は、「賃金」が持つメッセージの強さを計り誤っていることが原因だと私は思っています。
賃金は従業員へのメッセージ性が非常に強いです。
この感覚はどこかの本に書いてあってわけではなく、私が人事として12年従事する中で、現場の社員を見ている中で、また自分自身が従業員として報酬を受け取る中で感じてきたことです。
自分が評価されているか、この企業でどのように扱われていて、今後に期待されているか、すべて賃金に現れているからです。
そして、どの報酬で、どの項目で支払うかによってメッセージが変わってしまいます。
例えば5,000円昇給すると決めたとしても、基本給が5,000円上がるのか、賞与が5,000円上がるのか、手当で5,000円支給するのか、従業員の懐に入れば同じですが、従業員が受け取るメッセージは全く異なるものです。

上記は基本給と役職手当の違いです。
この感覚が社長様だと感じにくいところになります。
懐に入れば一緒でしょ?と考えてしまいがちですが、そうして一緒くたにしてしまうと意図したこととは全く違うメッセージが発信されてしまいます。
是非この支払項目によるメッセージの違いを意識して頂ければと思います。
折角賃上げしたのに、なぜ組織が崩れるのか
もう一度整理すると、賃上げ(ベースアップ)は個人の努力や従業員の能力差は全く関係ありません。
つまり、賃上げ(ベースアップ)をするということは、「うちの会社は年功序列的で、個人の実力は評価しません」というメッセージになってしまうのです。
これが折角原資をつかって水準をアップしても従業員に伝わらない最大の原因です。
もう少し詳しく見ていきます。
よく見てみると中小企業の賃上げ(ベースアップ)は、2パターンあります。
①まず、個人によって差をつけないパターン。
これは本来の賃上げ(ベースアップ)のやり方です。50人規模くらいまではフラットな組織体制のやりやすいこともあり、平等な処遇にすることが多くあります。
しかし、50人を超えたあたりから、平等な処遇がある意味不平等感を招くようになります。
「なんであいつと同じ上げ幅なんだ」「頑張っているのにもっと上がらないのか」このような声が従業員から上がるようになります。私も従業員面談で従業員の声を聞く機会が多いですが、フラットな組織体制の企業様では必ずと言っていいほど「優秀社員」からの不満が出ます。
これが非常に危険です。なんて言ったって、一番辞められては困る社員からの不満です。フラットな体制にして「全員平等、喧嘩をしない」ことを優先してしまうことで、組織の核を失っては元も子もありません。
②次に、賃上げ(ベースアップ)に評価を織り交ぜているパターン。
「うちは一律アップではない」「各人の評価を賃上げに上乗せしているから、評価も含まれるんだ」と思った方もいらっしゃると思います。経営者から見ると、「賃上げ+評価=一律ではない」と認識されていると思いますが、これが従業員にメッセージとしては伝わりません。
従業員はいくら評価が入っているといっても、そのプロセスや評価してもらった内容が見えない限り、どこまでいっても賃上げ=一律アップです。どこからが賃上げ分で、どこからが評価分なのか、分けて説明することが必要です。
そして、だからといって賃上げ(ベースアップ)をしない方が良いということではありません。もちろん、法定遵守だからという理由もありますが、それだけではありません。
昨今の物価上昇率の急激さ、それに伴う最低賃金の上がり幅の大きさを見ると、賃上げ(ベースアップ)をしないと他社と戦っていけなくなります。この人手不足の時代、未経験でもいいから来てほしいという企業も増えています。つまり、戦っているのは競合他社だけではない。
給与差をつけるなら、「なぜ差がつくのか」まで伝える
ここまでの内容から、賃金のパワーの強さを実感するとともに、相当戦略的に扱わなければならないことが分かります。
一番もったいないのは、上記の「②賃上げ(ベースアップ)に評価を織り交ぜているパターン」です。
折角賃上げもして、評価も入れている。にもかかわらず、従業員には「頑張りは評価されない」と受け取られてしまっている。これではいくら原資を用意して賃上げしても、経営者が「従業員のために頑張りました!」と訴えたとしても、会社が本来伝えたかったメッセージとは逆のものが伝わってしまいます。
ポイントは、「どこまでが賃上げでどこからが評価給なのか、線引きをする」ことです。
そして、可能な範囲で、従業員の方には分けて説明してください。それぞれのルールも必要です。すべての給与決定ルールを細かく公開する必要はありません。ただし、少なくとも、
「なぜ自分の給与がこうなっているのか」
について、従業員がある程度理解できる状態にはしておいた方がよいと思います。
これは、人事制度を入れるべきという話ではありません。明確な制度がなくても、経営者自身が整理するところから始められます。制度がない企業様でも、社長はある程度の法則性に則って賃金を決めている場合が多く、すべてを公表できなくても一定の基準は説明できると私は思っています。
むしろ重要なのは、制度の有無ではなく、会社として「何に対してお金を払うのか」が決まっていることです。
最低賃金が上がったから、とりあえず全員の給与を上げたり、採用できないから若手だけ給与を上げたり、辞められたら困るからその人だけ給与を上げたりする。
これを何年も積み重ねていくと、いつの間にか「なぜこの人がこの給与なのか、会社自身が説明できない」状態になってしまいます。
「いくら上げるか」だけではなく、「何に対して上げるのか」を考える。
私は、これがこれからの賃上げで最も大切なことの一つだと思っています。

従業員説明資料
なお、賃金について、どの層から上げていくか、給与の業績連動はどうかという記事を別で書いています。さらに深掘りしたい方はぜひご覧ください。
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カテゴリ:ブログ,人事制度(報酬制度),賃上げ




