事業成果を出す組織を作るのブログ

人事制度は車の運転に似ている

ここ最近、「仕組み化」という言葉を目にする機会が増えています。

企業や組織は活動を継続することが求められます。継続するには、誰かがいなくなってもチームが回るようにしておかなければならず、「属人化」は大敵です。そのため、企業では属人化を解消すべく標準的な仕組みを取り入れ、誰が抜けても誰が入っても一定の品質を保ちつつ対応できるようにしようという動きが広まっています。

一見すると正しい方向に見えますが、私はここに「仕組み化」への過信を感じてしまいます。仕組みを導入しただけでは組織は動かず、結局はそれを動かす人にマネジメント能力次第で運用の良し悪しが決まってしまいます。それもそのはず、仕組みはマネジメント能力そのものを上げてくれるものではないため、どうしても使う個人の能力に依存します。仕組み化はハード面の施策のようで、実はソフト面が非常に大きく影響するということです。

人事制度はまさに「仕組み化」に該当するわけですが、ご支援する中で「人事制度が先か、マネジメントが先か」という問いを頂くことがあるので、記事にまとめてみました。

 


結論、マネジメントが先

「人事制度が先か、マネジメントが先か」という問いですが、結論から言うと私は「マネジメントが先」だと思っています。

全国の中小企業から人事コンサルのご依頼を頂く際、ご支援先の現状はまちまちです。多くは2パターンあり、①全く何もないところから人事制度を作ってほしいと依頼されるパターンと、②随分前に作った制度があるものの形骸化してしまって全く機能していないパターンがあります。

①のパターン(人事制度がない)についてもよくお話を伺うと、実は以前に担当者や経営者が独学で人事制度(特に評価)の設計を試みたり、人事制度まではいかなくても社内規範になるようなルールを作り、導入を試みている形跡があります。①②ともに「自分たちでやってみたけどできなかった」という挫折経験を経て、私のところへお声がけ頂くことが多いことが分かりました。

では、自分たちでやってみたけどできなかった要因は何でしょうか。

個人的には、多くの企業でこの挫折経験の原因特定がやや粗いように感じます。

まず、企業様から聞かれる原因は「仕組みが悪かった・古い」点です。確かにこれも原因としては考えられると私も思っています。というのも、人事制度はそもそも非常に難解です。人事未経験者が独学で人事制度を組む場合は、人事人材として専門的に労力を注ぐ必要があります。(ちなみに、我々コンサルが設計しても、設計期間は1年以上頂きます。)また、メンテナンスが必要な仕組みでもあるので、毎年課題と修正点を定点観測していないとあっという間に実態にそぐわない基準になってしまいます。歪んだ枠組みを使っていても成果が出ないのはその通りで、それ故に私も仕組みの重要性を説いている訳です。

ですが、途中まで手掛けた制度や規範を見せてもらうと、既存制度のクオリティが非常に高いので驚きます。漏れの無いスキルマップや業務マニュアル整備、売上目標の評語化、評価基準の洗い出し、手当の検討などもあったりします。私が修正をせずともそのまま使えるレベルで作られていており、驚くことも少なくありません。

では、なぜ失敗してしまうのか。それは、その企業様に「仕組みを運用できる力がないから」です。そして、この「仕組みを運用できる力」こそが、評価する側のマネジメント能力に当たります。

 


車を運転するにはドライバーの運転能力が必要

「人事制度」と「マネジメント」の関係は「車」と「ドライバー」の関係に似ているなと感じています。

人事制度を作ることは、車を作ることと同じです。要するに、ハードの設計という訳ですね。消費者のニーズに合わせてデザイナーが格好良い車にデザインすると、車の構造やしくみを熟知しているエンジニアが設計図を引き、現場では技術者たちが各パーツや素材の知識と技術を駆使して車を形成していきます。そのような専門性の集合体として、車が出来上がっています。

しかし、車が完成しても動かすことができなければただのガラクタです。車を運転するにはドライバーの運転能力が必要です。アクセルとブレーキとは何か、どのくらいの感覚で踏むと車が発進したり停止したりするのかという動作能力だけでなく、道を覚えたり、駐車場のスペースに合わせて停車したり、道路標識などのルールも覚えます。車の運転はライセンスが必要ですから、皆さん自動車学校に通って免許を取って初めて一般道で運転できるということです。

人事制度をこれに当てはめてみると、車=人事制度、ドライバー=評価者であるマネージャー、運転能力=マネジメント能力ということになります。デザイナーやエンジニアに当たる部分は自前でやる場合は人事部門、外部に発注する場合は我々コンサルタントとなります。

そして、車が欲しいと思ったら、お金を出せば買うことができます。F1に出ない人にF1カーを売るか?という問題があり、ただ眺めているだけのディスプレイ用であればそれもあり得ますが、人事制度はディスプレイするわけにはいきません。組織が小さかったり、運転者の能力が低かったりと、組織のレベルに対してオーバースペックだと判断した場合は、私は人事制度を売ることはできません。

ここでのポイントは、運転をしたことがない人は練習が必要なのと同様に、人事制度を扱うにはある程度のマネジメント能力を事前に実装して頂くことが必要だということです。卵が先か鶏が先かという話ではありますし、もちろん実践で習得できる部分も大きいと思います。もし運用していくうちにマネジメント力を向上させるという方針であれば、効果がでるまで3年は期間を見て頂きたいと思っています。

 

 


人事制度はマネジメント能力がある人が使うツール

「仕組み化」が語られるとき、その響きの中に「仕組みは自動的に動く」という感覚が含まれている気がしています。

それを指摘すると、もちろん皆さん「そんなことできないと思っているよ」という反応をされるので理屈ではご理解されているのですが、では具体的に仕組みをどのように使っていきますか?と問われると、手順や状況の場合分けがイメージがついていないのです。

私の考えとして、「人事制度はマネジメント能力の自動向上装置ではない」とお伝えしています。

人事制度は「評価制度」を以って回していきます。直属の上長と部下が目標設定→ミッション推進→評価を面談で握っておき、全社全体の相対評価を経て、確定した評価を本人へのフィードバック、という流れです。これを見ただけでもコミュケーションの機会が意図的に増えることが分かります。が、マネジメント能力のある方は必要工数だということを理解しているため、これらを既に実施しているのです。そこに標準的な実施プロセスである「仕組み」が導入されればさらにやりやすくなるでしょうし、自分なりのアレンジを加えてマネジメントすることもできます。しかし、実施していないケースでは、制度によってコミュニケーション機会を増やしたとしても、部下と何について話せばいいか分からず、雑談で終わってしまうのがオチです。

当たり前ですが、マネジメントは信頼関係によって成り立ちます。そして、信頼関係は日々の業務の中で作られます。ここで問題なのは、仕事ができる=信頼しているではないということで、現場から離れている上長(特に社長様が一手に評価を担う場合)は、評価者としての信頼という点では不足していることがあります。ここで次の手が打てているかが重要で、マネジメント能力のある人はその点に気付き、業務としての接点を日々持とうとします。これは、雑談や飲み会などプライベートな形式ではありません。上長自身の業務の手を止め、部下のために面談時間を確保し、対話やヒアリングを「業務として」行います。仕組みではなく、「上長の想いで」実施してくれるということに部下は嬉しいのです。つまり、面談の内容ではなく、面談時間を持ってくれる(自分を必要としてくれる)事実に信頼が発生するわけです。一方、多くの方はこの視点に気付けないか、気付いていても後回しにしています。ということは、いつまで経っても信頼は築かれないということです。このように、マネジメント能力は「仕組み」では自動的に向上しないことが分かって頂けると思います。

部下との信頼の大きさと上長のマネジメント能力は表裏一体です。逆に言うと、信頼を大きくする行動を上長が取っていれば、マネジメント能力は必然的についてくることになります。人事制度をうまく運用できず、悩んでいる方や企業様がいらっしゃいましたら、実は仕組みの外に要因があるかもしれないと考えてみてほしいと思います。

 

 

 

 

トップダウンとボトムアップ

トップダウンvsボトムアップの論争

人事制度を導入するために組織診断をしていると、トップダウンとボトムアップという話にぶつかります。どちらが良いというわけではなく、必要な部分に必要な手法を使えているかという話だと思ったので、まとめました。

 


実は、中小企業はトップダウン組織が作りにくい

ネガティブな社風として、従業員様から「当社はトップダウンだ」というお話をよく伺います。

確かに中小企業では社長と従業員の距離が近いため、心理的にそのように感じることは多いかもしれません。社長の指示がダイレクトに個人に向かうことは大企業ではあり得ないことで、良くも悪くも受け取る側からしてみると言葉の重みは大きいものがあるでしょう。

また、一挙手一投足社長に見られてしまうわけですから、それでは従業員が息苦しくなるのは非常に理解できます。特にコア事業は社長の一番の得意分野であることが多く、社長の考えが色濃く反映されることは間違いないです。社長がいちいち口を出してくる、新しい取り組みを潰されるといった状況に従業員が疲弊してしまいます。

しかし、大企業と比べると、実は中小企業は現場の裁量が大きいように思います。小さい会社では、担当範囲を細分化することができないため、社員一人一人がある程度広い範囲を担当しなければなりません。社長も現場のことは意外と分からないことも多く、そうなると一定の権限の範囲内であれば、自由に動き回ることができます。

一方、上場企業は社長を中枢とした強烈なトップダウンです。各部署における業績ノルマの達成/未達成は厳しく評価され、優秀かどうかは噂が一気に回ります。加えて、フジテレビの件が分かりやすいですが出世競争や社内政治も蔓延し、トップの意見を確実に実行できる人材(イエスマン)が権力を握っていきます。人事権も社長にあるため、意向に沿わない人は異動させることで辞めさせずともその人材を組織から外す(いわゆる左遷)ことが可能です。

その点、中小企業においてはブラック企業を除き、ここまでの強烈なトップダウン組織は作りにくいと思います。まず、部署が少ないので人事権が効きにくく左遷ができない。さらに、現場は従業員が取り仕切っているため辞められては困る。無意識だとは思いますが、それを逆手に取った方はある場面では社長よりも発言権が大きくなったりもしているとお見受けしています。

中小企業の社長の皆さんは、会社を大きくしたいと考えていると思います。それはつまり、組織をさらにトップダウンに変えて締めていくという意味になります。しかし、従業員は現レベルでさえもトップダウンに対してアレルギーがある。ここをいかにして突破できるかを考えていく必要があります。

 


ボトムアップは自然発生的には生まれない

従業員の方から「当社はトップダウンだ」というお声と同じくらい聞かれるのは、社長様からの「当社はボトムアップは無理だ」というお話です。

社長様の立場からしてみると、「自分が指示をしないと従業員は何も動かない」と感じられています。ある意味その通りで、企業は社長が一番熱量を持っている組織体です。そのため、理論上は社長の期待以上に働いてくれる人はいないことになります。

しかし、ここで問題なのは、社長の立場からは現場が見えなくなっていることです。立場が上がると経営的視野が広がり、未来の事業計画を立てることになります。と同時に、視座が高くなった分、足元が見えなくなるのです。

例えば、なぜ退職者が止まらないのか、自分の方針がなぜ末端まで届かないのか、なぜ組織がまとまっている感覚がないのか。何か組織内に問題があるはずだが、同じフロアにいる従業員の様子が社長からは分からないというわけです。

それは、トップダウンオンリーで閉塞的な雰囲気になってしまっていることが一因かもしれません。組織拡大のためにさらなるトップダウン体制を作っていくことは必要ですが、ボトムアップ要素を入れておかないと組織は息ができなくなり、従業員は働く場所としてその企業を選ばなくなります。

ボトムアップは自然発生的には生まれません。そのため、意図的にボトムアップを取り入れる必要があります。ボトムアップが根付くことで社風も変えていくことができます。

 


ボトムアップが成立する条件

では、ボトムアップはどのような条件で成り立つのか。

私は「①トップからの問いかけ」と「②汲み上げる場の設定」が条件になると思います。

様々な組織を見てきましたが、①②それぞれ実施されているケースは実は非常に稀です。①の「トップ」とは社長様だけを指しているのではありません。リーダー(管理職)→メンバー、さらに下位組織でも主任・係長→後輩も当てはまります。小さなユニットになっても同じように①②が実施できて初めてボトムアップが可能な組織と言えます。

そして、この①②を作るところからボトムアップでやらせようとするリーダーが非常に多いですが、①②を下位の立場の者が作ることはできません。

ボトムアップはトップの熱量から始まります。トップが本気で皆さんの意見を聞きたいかどうか、従業員には透けて見えてしまいます。ボトムアップが自然発生的に生まれない要因はまさにこれで、求めるだけではだめだということです。

言い換えれば、トップの熱量があればボトムアップの組織に変えていくことは可能で、上手くできていない場合はこの「①トップからの問いかけ」と「②汲み上げる場の設定」を改善すればよいだけだと思います。ここは研修や伴走次第でいくらでも実施を促すことができます。

そして、人事制度(特に目標管理による評価制度)はこのボトムアップのネックになる条件を乗り越える一番よい手法です。人事制度を導入することで、①②が組織のルーティンワークとして入り込み、コミュニケーションの量は格段にアップします。(ただし、そこに質が伴うかはリーダー教育が必要です)

現在ご支援中の企業様では、評価のみならず組織体制を整えるための人事制度を導入すべく伴走しております。

 

 

なぜあなたの組織はまとまらないのか

チームとして機能していないという経営の悩み

ご連絡頂いた企業様と無料相談を実施しています。

ご相談頂く内容で多いのは、「組織がまとまらない」という悩みです。「新しい事業に取り組みたいが従業員が納得していない」「同じ方向を向いている感じがしない」「自分一人で成果を出している」など。「チームで成果を出す」とは程遠い状況に経営者の皆様は悩まれています。

従業員数がまだそこまで多くはない中小企業におかれては、従業員と経営者との距離が近いため、より密接なやり取りが必要になります。従業員がついてきていない、というのが肌で感じ取れてしまうんですね。職人気質な風土だから、寡黙な性格の人が多いから、年配の人が多いからとは言え、経営者の方向性を従業員が理解している組織であれば、「まとまっている」「伝わっている」という感覚は感じることができます。逆に言えば、自分の組織に感じた違和感、残念ながらその感覚は当たっていると思います。

このような状況下で無理やり事業拡大を行ったり採用強化を図り組織を拡大させようとすると、たちまち組織が崩壊します。従業員の離職が止まらなくなったり、従業員との溝がより深くなってしまいかねません。このような時には、従業員サイド/経営者サイドの両方からの改善施策が必要です。今回は経営者サイドからの課題を挙げてみたいと思います。経営者の方は耳が痛いと思いますが、確認して頂ければと思います。

 

いくつか要因はありますが、大きなものとしては①リーダーシップの問題、②組織の問題があります。

①リーダーシップの問題については、ヒアリングの中で従業員と経営者の間に溝があることがよくあります。昨今様々なリーダーシップの在り方が提唱されていますが、経営者の方は私はリーダーシップとはコミュニケーションだと思っています。もっと具体的に言うと、”対象”と”タイミング”と”量”です。このどれか一つでもずれてしまっていると、リーダーシップは失敗します。つまり、組織を引っ張れている状況ではないということです。

経営者の方で、意外とリーダーシップの出し方に失敗してしまっている人がいます。優秀な経営者=優秀なリーダーとはならないのです。ここが事業と組織のバランスの難しいところです。いくら事業で面白いことが思いついたとしても、やりたい方向性が見つかったとしても、資金調達が上手くいったとしても、事業を膨らませるのは「人」なのですから、「経営者」は「リーダー」へシフトしていく必要があります。

こちらについては、別でブログとしてまとめたいと思います。

 


組織を強化するための仕掛けを仕込む

チームがまとまらない原因②「組織の問題」について解説します。

まず大前提として押さえて頂きたいのは、チームは個人の集まりです。従業員は入社したらすぐにチームの一員になるわけではありません。ここも意外と見落としがちです。目の前に事業としてやることがある、従業員がそこに取り組んでいる、これだけで安心してはいけないのです。

チームというものはどのように形成されていくのでしょうか。「組織設計概論」(波頭亮)によると、組織を構成する要素は下記の3つの”S”です。「Structure(組織骨格)」「System(制度・規則)」「Staffing(人員配置)」です。

・「Structure(組織骨格)」

組織図を作るというハード面の施策です。事業の内容や取り組んでいるミッションに従って、部署を分割するという水平的な構築と、リーダーを置き階層を作るという縦の構築があります。そのほかにも、特別な案件だったら社長直属にするとか、一つの部署に部下を何人まで配置するとか、考えることはたくさんあります。

・「System(制度・ルール)」

いわゆる人事制度(評価・報酬・目標管理など)を導入することです。経営者の考えと従業員の考えをすり合わせる方法は、人事制度しかないと思います。制度を導入しないと、組織はいつまでたっても個人のままです。組織を動かすために従業員にどのように働くことを求めるか、経営者の明確な発信が必要な施策になります。

・「Staffing(人員配置)」

配置・人事異動を実施するソフト面の施策です。組織体制を敷く一番のメリットは戦略の速やかな実行です。そのため、誰がどの役割を担うかによって、成果は大きく異なります。中小企業の限られた人的資源で事業をスピーディに推進するには、個人のプロフェッショナルスキルを最大限に活かすための分析とマッチングを実施し、定期的にメンテナンスを行う必要があります。

 

私は小さな組織ほど、この3つの”S”を押さえるべきだと思います。つまり、ずべこべ言わずにシステマチックな仕掛けを仕込んでしまい、組織を外側から完成させてしまうということです。

例えば、「Structure(組織骨格)」ですが、中小企業だと組織をピラミッド化することに抵抗感を覚える経営者の方も少なくないと思います。フラットな組織のまま行きたい、序列をつけたくない、など。確かに、そのやり方でうまくいっている間は私も無理に組織構造を変える必要はないと思います。

しかし、「組織がまとまらない」という違和感が現れ出したら要注意です。その違和感は水面上に現れている氷山の一角なのだと思います。水面下に潜む問題の核心は、「従業員が経営者の指示が聞けなくなってきている・鈍くなってきている」ことです。人事・組織開発は、経営者の方針や指示を組織の隅々まで流し込むためのシステムを作るための施策なのです。その過程で、従業員との信頼関係を作り直す必要があります。それについても上記の3つの”S”で網羅することができます。私が、小さい組織ほどなるべく早く導入してしまうべき、と述べている理由が分かって頂けるかと思います。

但し、この3つの”S”は組織に対して非常に客観的な視点が必要であることと、経営者自身が「人」や「組織」について時間を割かねばならないことは覚悟して頂きたいです。完璧なフルパックで対応する必要はないので、できる部分から簡単に対応することが望ましいと思います。

 

リモートワークのマネジメントと雑談

リモートワークで部下が感じる不安

直近で、完全リモートワークの企業にお勤めの方から「リモートワークでのチームビルディングについて教えてほしい」というご要望を頂き、カスタマイズセミナーを実施しました。リモートの状況下で若手社員が定着せず一気に辞めてしまった時期があり、このままではだめだとマネジメントをどうしたらよいかというお悩みでした。

実はこのテーマのご要望は今回が初めてではなく、ちらほら頂いています。コロナもほぼ落ち着いて出勤を求める企業が増えてきた中でも、現在でもリモートワークでの働き方を選択している企業もいるわけですね。エンジニアの方や育児中の方などにとっては柔軟な働き方を提示できれば採用につながる一方で、入った後にコミュニケーションが取りにくいことによる「チームの一体感」が出ないことについて悩まれているようです。

一番重要なポイントは「物理的な距離=心の距離を埋めることに手間をかけられるか」どうかだと思います。

これは完全出社の企業でもフリーアドレスなどの状況でも同じことが言えます。私も週に1~2回ほど在宅勤務をしますが、部下の立場での話をすると、自分の作業の進捗状況や働きぶりをリーダーが本当に見ていてくれているのか不安になるのです。下手すると、在宅勤務の日は丸一日リーダーとコミュニケーションを取らない日もあります。それが毎日リモートワークとなると、特に入社して歴の浅い新入社員や中途入社社員は不安が募ることでしょう。業務指示は降ってくるけどこちらの進捗は確認されない、自分の成長具合も計画されている感じがしないとなると、存在意義が見いだせなくなることは容易に想像できます。まさに、心の距離が遠くなっていく状態です。

リモートワークでは、「部下の心の距離を埋めること」がマネジメント層に求められます。マネジメントの義務としてプラスされていることを自覚しましょう。これはつまり、心の距離を埋めることができないリーダーはマネジメントスキルが不足しているということになります。若手のころはそこまで手をかけてもらっていない層が、自分たちがマネジメント層になったら部下との積極的なコミュニケーションを求められるというのは、押し付けられている感はあります。厳しい言い方をするとリーダーになる方は必ず評価される項目になると思います。

 


雑談は「このチームの一員である」というシグナル

心の距離を埋めるということは、「見ているからね」(見守りの意味でも監視の意味でも)ということをリーダー自身が発信しなくてはいけません。そのような状況であれば、雑談は非常によいツールであることを改めて考えてみてください。

実は、私も雑談をするのがそこまで好きなわけではありません。重要な打合せが重なっている日はそのシミュレーションで頭がいっぱいになり、雑談どころではなくなってしまいます。必要事項だけ打合せしてすぐにオンラインミーティングから退出したいという方の気持ちもわかります。

ただ、雑談が好きなリーダーと嫌いなリーダーは下から見ていると明白で、後者については「この人、人やチームに興味がないんだな」と部下は簡単に感じ取ることができます。すると、そのリーダーに対してついていこうという気持ちは全く起きず、貢献意欲などは湧きません。そして、リーダーのみならずチーム全体に対して心が開かない状態になってしまいます。これでは、チームビルディングのスタートラインにも立てていません。

雑談は「あなたはこのチームの一員」だというシグナルです。

雑談がないチームというのはビジネスライクが強い=心を開かなくてもよいチームということになります。個人的な感覚ですが、人間の本能として「雑談を日常的にかわしている人=味方」という安心感があるように思うのです。反対に、雑談がない=味方がいないとなるわけです。これは雑談の持つ効果を軽視できません。単純にフレンドリーな空気を作るということではなく、「このチームの一員かどうか」をお互いが判断するものなのです。

それに伴い、もう一つ意識して頂きたいのは、「リーダーきっかけで」雑談が始まることだと思います。まずはリーダーがこのチームに心を開いていることを示さないとメンバーに心を開くことを強要するのは到底無理でしょう。特にオンラインミーティングでは、出社している時のように突発的な会話が起きにくいので、その時は意図せずできていたコミュニケーションのハードルが格段に高くなります。リーダーがもしこの状況を脱したいのであれば、要所要所に雑談をはさんでみるということを実施してみてください。

 


スキマ時間を利用して小さな話をすればよい

雑談というと何かネタを用意して話を盛り上げなくてはいけないのかとか、プライベートで起きた情報を切り売りしなくてはいけないのかなどというイメージもありますが、そんな準備はしなくてよいと思います。また、相手から何か聞き出してあげなきゃ、相手を喋らせなきゃという時間でもないと思います。

要するに、雑談の話題自体が重要なのではなく、小さな話題(天気とか、ランチとか、通勤とか、社内イベントの話とか)がぽっと出せる雰囲気か+それに反応してくれる雰囲気かどうかの方が気にしてほしいポイントです。ここを面倒くさがっていてはいつまでたってもリモートワークでのマネジメントは確立していきません。

また、タイミングについては、オンラインミーティングのスキマ時間を利用しましょう。わざわざ雑談のために集まる必要はありません。ミーティングの開始・中断・終わりで少しでも時間が残っていれば、スキマ時間を利用してミーティングに関係するようなことから話すとよいと思います。業務についての話でも「ちょっと聞きたかったこと」であれば、それは「雑談」として話すことは可能です。

リモートワークのみならず、在宅勤務・フリーアドレスなどメンバーが離れて業務を行っているチームでは、リーダーは「物理的な距離=心の距離」を埋めることができなければ務まらないと思います。チームでの成果を出すためには、離れていてもチームが瓦解していないかを確認する必要があり、さらに結束するためにはどうしたらよいかを考えるのがリーダーの役目です。これを機にチーム内の「心の距離」を考えてみる一助になれば幸いです。

 

  • カスタマイズセミナー内での資料抜粋(IGNITE HORIZON 2023)