事業成果を出す組織を作るの実績紹介

中小企業の人的資本経営 ― 会社が所有できない「人的資本」に投資するということ

2020年9月に「人的資本経営」という言葉が初めて発表されてから、すでに6年が経ちました。

大企業では当たり前のように聞きますし、HPに掲げている企業も多く見かけますが、残念ながら中小企業ではあまり浸透していないように感じます。

中小企業は目の前の資金繰り、当日の作業員の確保、賃上げ、度重なる社員の入退社の中で、会社を切り盛りすることに必死です。

「人的資本経営」などという理想論で社員の未来を考える暇もなく、会社の5年後もどうなっているか分からない状況であると思います。

ですが、私は中小企業こそ「人」を軸に経営せざるを得ない状況を見てきました。

事業はある、発注もくる、売上も右肩上がり。でも、「人がいない」。

人がいなければ、案件がいくらあっても断るしか方法はありません。果たしてこれで良いのか。

今一度、立ち止まって中小企業の「人的資本経営」について考えてみたいと思います。


中小企業こそ「人への投資」を避けて通れない

まず、そもそも「人的資本経営」とは何か。

「人的資本経営」とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的企業価値向上へとつなげる経営のあり方です。参照:中小企業人的資本経営支援事業 | 東京都中小企業振興公社

人的資本経営は、経済産業省が提唱した考え方です。

それまでは、人・組織・雇用については厚生労働省の管轄につき、厚生労働省から通達が出るのが一般的でした。それが、2020年9月に経産省から企業における「人」に関する方針発表があった。つまり、「人」の管理は重要な経営要素である、ということが示されました。

私がこの考え方で重要だと思うのは、人への支出を単なる「コスト」として見るのではなく、事業の未来をつくるための「投資」として捉えていることです。

これまで人件費は、利益を残すためにできるだけ抑えたい「コスト」として扱われがちでした。しかし、人がいなければ売上そのものをつくれない企業では、人件費を削ることが、将来の売上を削ることにもなります。

事業の未来を作るためには、従業員が「この会社で長く働きたい」と思えるような組織づくりをしなければなりません。そのために経営リソースを使って投資を行っていく。

人件費は、現在の利益を減らす費用であると同時に、将来の事業をつくる投資でもある。

この二面性を経営としてどう扱うかが、人的資本経営なのだと思います。

採用、育成、配置、評価、報酬。

これらは人事部だけが考える施策ではなく、「これから会社をどう成長させるのか」という経営そのものとつながっている。人的資本経営の重要な転換なのだと思います。

ここで、1つ疑問が浮かびます。

人的資本経営=大企業の話では?ということです。

確かに、大企業は人的資本経営を掲げやすいのは事実だと思います。大企業は株主へのアピールとして「働きやすさ」とか「ウェルビーイング」とか「心理的安全性」とか、目に見えないものが数値化できれば、”良い会社”であることの証拠になります。では具体的に何をするか?という話にしたって、従業員満足度アンケートを取って数値化するにしても研修をやるにしても、予算もつきやすいこともあり、推進がしやすい状況であります。

ですが、私はむしろ中小企業こそ人的資本経営を掲げるべきと考えています。

有限どころかここからどんどん減少に向かっている煽りを真正面から受けるのは、中小企業です。まず中小企業から人がいなくなる。今、各社必死で外国人材の活用で食い止めていますが、とくに労働集約産業はまさに乗り越えるか、波にのまれるかの瀬戸際です。

中小企業こそ「人が有限」なのです。従業員の価値が上がっていく。今いる社員は手放さない、新たに人が入ってきたいと思う環境を作る、この2点が経営の中で重要になります。

だから私は、中小企業にとって人的資本経営は「余裕のある会社がやる理想論」ではなく、むしろ経営を続けるための現実的なテーマだと思っています。

 


人的資本経営は、「誰に・何に投資するか」を決める経営

では、「人的資本経営」が理想論ではないとしたら、具体的に中小企業に何が有効なのか。何を取り入れる必要があるのか。

私はヒトへの投資には大きく3つの方向があると思っています。

今いる人を「守る」投資。
今いる人を「育てる」投資。
足りない人を「獲得する」投資。

この3つを網羅するために、まずカネの投入は避けて通れません。

中小企業における人件費は非常にシビアです。人件費によって事業が回らなくなってしまったら元も子もないですし、業績のアップダウンが激しいため固定で支出する金額をなるべく抑えたいのは痛いほど分かります。

しかし、その人件費を渋ることで大事な経営資源の「ヒト」が逃げてしまっては、事業どころではなくなってしまいます。そういった意味で、「事業」と「組織」は表裏一体なのです。

この人手不足の時代に従業員を疎かにして採用を繰り返すのは無鉄砲です。そのため、従業員が「この会社で働きたい」と思い続けられるような会社にする必要があり、社長は事業を進めつつ、従業員の頑張り・貢献を還元せねばなりません。社員からみたら賃金です。カネの投入を省いて「うちの会社は人を大事にしている」というメッセージを発信しても、社員からすれば実態がなく、何も届きません。

人への投資を語るのであれば、賃金の問題を避けて通ることはできません。どれだけ「人を大切にしています」と発信しても、市場水準から大きく乖離した賃金や、責任・貢献と処遇が釣り合っていない状態では、従業員には届きにくいからです。

中小企業振興公社のHPに掲載されいてる下記の図を見ても、「人的資本経営」の出発点は「人に投資をする」ことから始まっていることが分かります。

引用:中小企業人的資本経営支援事業 | 東京都中小企業振興公社

 

次に、経験や知識の投資です。

原資が無限にある訳ではないのと同様に、経験や知識を教えるリソースも限りがあります。特に、全員ができるべき技術面というよりも、将来会社を引っ張っていくであろう人材を育てるためには「誰に・何に投資するか」という戦略が重要です。

そのために、経営戦略(事業計画)が必要になります。

今後5年で事業はどのように変化するのか、あるいはあえて変化させないのか。その事業の方向性によって、必要な人材が異なるため投資先が変わってくるはずです。

技術重視でいくのか、マネジメント重視でいくのか、役員を1名増やしたいのか、外から取ってくるのか。

事業に合わせたヒトの計画は山ほど出てくると思います。この経営戦略と人材戦略が一致するとき、人的資本経営がはじめて機能すると言えます。

なお、私は中堅層への投資を厚くるすべきと考えており、それについて別ブログ記事を書いていますのでぜひこちらも御覧ください↓

10年前から始める「次世代の組織づくり」― 中堅層を大切にしない会社に、次世代はない


人的資本は、「会社が所有できない資本」である

一点、「ヒト」は残りの資源(モノ・カネ・情報)とは異なる性質があることを意識せねばなりません。

それは、従業員は退職する権利がある、つまり「会社が所有できない資本」だということです。

設備に1,000万円を投資すれば、その設備は会社のものになります。しかし、社員の育成に時間とお金をかけ、その人が新しい知識や技術を身につけたとしても、その知識や技術そのものを会社が所有することはできません<strong>。</strong>能力や経験は、その人自身の中に蓄積されていきます。しかも、その能力をどこで、どの程度発揮するのかについても、本人の意思が介在します。ここが、設備投資や金融投資と人的資本への投資の決定的な違いです。

これは、一見すると矛盾に思うかもしれませんし、経営の一番難しいところとも言えます。その人がどのくらい伸びるかもいつ退職も予測できません。予測ができないなか掛け捨てになってしまうかもしれない投資を続けていくのです。

しかし、この一見投げやりたくなるような矛盾をきちんと飲み込んで進んで行くことで、「人的資本経営」の本質を掴むことができると私は思います。

人は、自分の意思で働く場所を選ぶ存在です。

ということは、どの企業の資本になるかは従業員一人一人に決める主導権があります。企業は選んでもらう側なのです。そして企業は選ばれる側であるならば、「投資した能力をこの会社で発揮したい場所を作る責任」があります。従業員から選ばれ、能力を発揮してもらう。これが、人的資本経営の最大の効果です。

そのため、たとえ中小企業であっても、むしろ中小企業のほうが、魅力的な会社になるために常にアップデートしなければなりません。人手不足倒産している企業においては、この魅力的な企業になるサイクルが上手く回っていなかったのでは?という仮説が立てられます。

この考え方ができる企業ほど業績が伸び、人が集まります。企業はつねに市場でジャッジされています。需要がなければ供給はありません。このシビアな社会で次世代まで生き残るために、「人的資本経営」への一歩を踏み出してほしいと思います。

 

 


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