2026年08月18日
<書籍情報>

書籍名:なぜ人と組織は変われないのか
著者名:ロバート・キーガン , リサ・ラスコウ・レイヒー
出版社:英治出版
どんな人におすすめか:人と組織は変えることができるか問いたい方、免疫マップの考え方を学びたい方、人が変わることを阻む「変化への抵抗」を分析したい方
「人は変えられない」という絶望から始まるマネジメント
組織変革の世界では「人は変えられない」という冷徹な事実が前提になります。
組織開発は、まずこの認識から始まると言っても過言ではありません。ですが、なかなか受け入れられない人が多いようにも思います。上司と部下のいざこざ、ハラスメント、同僚同士の争い、これらは「私の思う通りに変わってほしい」という願望から生まれたぶつかり合いとも言えます。
組織開発の主体者である経営者・リーダーからすると、「人は変えられない」という前提は救いようがない。この前提を飲み込みながらマネジメントや育成を行うのはかなりしんどいものがあります。自分のリソースを投入するわけですから、相手には少なからず感情移入しなければやってられませんし、何よりマネジメントや育成とはその小さな「期待に賭ける」行為だと思います。
最近、私は「本当に人は変われないのか」「変われないとしたら、それを前提にした包括的な組織開発のやり方はないか」に興味があります。少しでも経営者・リーダーの救いがどこかにないかを探しています。
今回は、本書『なぜ人と組織は変われないのか』から、そのヒントをどのような観点で読み解けるかをご紹介します。
本当に人は変われないのか:脳の可塑性と「変わらなさ」の正体
そこで、「本当に人は変われないのか」というシンプルな問いを見ていこうと思います。
その問いへの答えのヒントとして、「脳の可塑性」という現象が本書の中に出てきます。本書では以下のように説明されています。
脳の可塑性(かそせい)
:物体や脳などが外からの力を受けて変形や変化をした後、その状態を保ち、元に戻らない性質
「人は変えられない」という前提に絶望している人からすると、脳の可塑性は希望の光ではないでしょうか。ここでのポイントは、脳の神経回路が変化する起因は、変化、ショック、学習などの大きな外的インパクトだということです。
つまり、人を育てたいのであれば、同じ仕事をただ繰り返させるだけではなく、これまでとは異なる経験や、少し背伸びをしなければ対応できない仕事に触れる機会を意図的につくる必要があるのではないでしょうか。
プロジェクトにしてもルーチンにしても突発案件にしても、同じ部署での経験は4年もあれば一旦は満たされ、そこからは新鮮味はなくなってしまいます。何か問題が起こったとしても、過去の経験から解決策は浮かび、結論まで導き出せる。その導線が引けたことは素晴らしいのですが、脳の可塑性は生まれません。人が変化するためには、そのデジャヴから抜け出し、新しい部署への異動や新規案件に入るなどの外的インパクトに晒される新たな環境が必要です。
余談ですが、放っておいても人は育成されません。その衝撃の与え方をコントロールするのがマネジメントではないかと私は思います。それについては、下記のブログに書いていますので、ご参照ください。
では、脳の可塑性はどんな人でも起こりえるのか。ここは気になるところです。
本書では、「人間の知性には3つの段階」が説明されています。

引用:自己変容する組織:Living Organization-(1)~VUCA・デジタルディスラプションを勝ち抜く人材・組織の姿~ | 人材採用・育成|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
(元の出所:「なぜ組織と人は変われないのか」(Robert Kegan, 2014)
それぞれの段階の説明は本書を見て頂くとして、ここではポイントを整理します。
- 1つ目は、1つの段階を登るとすぐに次の段階にいくのではなく、ほぼ止まる安定期(台地)の期間があること。
- 2つ目は、次の段階へ変容を遂げるまでに要する時間は、段階が進むにつれて長くなること。
- 3つ目は、高いレベルの「台地」に進むほど、その段階までたどり着く人の人数が減ること。
ここからは、脳科学上の分類ではなく、本書を人材育成の実務に置き換えて考えた私なりの仮説です。
この3つのポイントをまとめると、私は人の成長には「縦」と「横」の二つの方向があるのではないかと考えました。
縦方向の可塑性とは、この段階を上に上がっていくために、無理やり外的要因を作り出し、難易度の高い環境に飛び込むことで難しい案件にも対応できるようになっていくという可塑性です。修羅場を乗り越えたからこそ今があると語っている役員が多いように、負荷を掛けなければ上のポジションに上がることはできません。
ただし、先ほどのポイント3つ目に書いているとおり、この上位階層の負荷は耐えられる人と耐えられない人がいます。そして段階が上がれば上がるほど耐えられる人材が減っていきます。この段階アップのための負荷に耐えられなかった人を「変わらない」と周りは思っているのだろうと思います。
横方向の可塑性とは、段階は上がることができないにせよ、同じレベル・難易度の仕事でも幅を広げることはできます。できることを増やすイメージです。例えばスーパーマーケットでは、陳列しかできなかった人がレジ打ちを覚える、ゆっくりしかレジ打ちできなかった人が忙しい時間帯のレジ打ちも対応できるようになる。欠品対応やクレーム対応ができるようになる。このように幅を広げていくことはできます。
縦の成長
=今までとは異なる複雑さ・責任を扱えるようになる横の成長
=現在の段階のまま、対応できる仕事や状況の幅を広げる
私は、この脳の可塑性の方向性を理解することで、育成側がどの方向に育成していくべきかをコントロールしていくことが必要と感じています。段階を登ることはできないかもしれない、でもできることを広げることは可能だからです。
では、個人の感情に着目すると、なぜ「人はなかなか変わらない」と感じるのでしょうか。
ここで本書が提示するのが、「変わりたい気持ち」と同時に存在する、変化を妨げるもう一つの力です。
ただし、人には変化を拒む免疫がある 免疫マップで自分の免疫を理解する
「脳の可塑性」を知ると人間の適応能力に希望を感じる一方で、変化が訪れるとき、その奥に恐怖があると私は考えています。
現在の課題を乗り越えるために人や組織は変化をしていくのですが、それが全ての方面で良い結果になるとは限りません。ある程度犠牲を伴って新しいものを得ることになります。組織で考えれば、変化を受け入れることは、むしろ自分の席を脅かす行動かもしれない。私はこのチームに居られなくなるのではないかという恐怖が付きまといます。
つまり、犠牲の方が新しく得るものよりも大きくなってしまうと、恐怖によって変化がストップします。すると、人間は変化を「しない」方を選択します。課題はある、でもそれを解決するメリットが個人にないのです。
そして、脳の可塑性が発揮するのは、この恐怖に打ち勝ったとき(変化を受け入れた時)です。
ということは、新しいものを飲み込みながら波に乗って人間が成長するためには、変化を阻む敵を知らなければならりません。
本書では、この自分の中にある恐怖や阻止するものにより、変化をしない(元の状態に戻る)ことを、病原菌をやっつけ、体が健康を維持するシステムになぞらえて、「免疫システム」と呼んでいます。
そして、この自分の中にある「免疫システム」を図式化し、外に出して書いて見ようというのが「免疫マップ」です。

本書をもとに、当社が図を作成
上記が免疫マップの全容です。
免疫マップで変化を目の前にしたときに思考回路を4つの枠で書き出してみます。そうして何が見えてくるかというと、「第3枠裏の目標」がむき出しになります。直観的に「この変化は私にとって不利だ」と判断したとき、「変化を阻止したい」と無意識に願ってしまうものなのです。誰しもが人前で必死に理論武装して、別の言い訳を作って、代替案を持ち出して、この第3枠の理由を正当化しようとします。
そして、その「変化をしたくない」という第3枠裏の目標が見えた時、その目標を持ってしまう裏付けがあるのです。それが「第4枠強力な固定観念」です。これは、過去の経験、元来の性格、家庭環境、夫婦関係など、実は仕事以外に原因がある場合が多いので、そこから深掘りしなければならないと著者は言います。
これは、私が人材育成が難しいと感じる理由と重なります。会社では、従業員同士はあくまでも「仕事」の範疇でしか会話はできず、上司と部下であってもプライベートに関わることは出さないようにします。しかし、変化を恐れる原因はパブリックの中に埋まっていません。いくらコミュニケーションを重ねたり、マインドチェンジの研修を受けたりしても、通常の会社の育成では、そもそも第4枠までアクセスできないからです。
では、企業はどのように人材育成を進めればよいか。
私は、人そのものの性格や行動を直接を変えようとするのではなく、経験・役割・環境・対話の設計によって、本人が自分の固定観念を検証できる機会をつくる。
そこまでが、企業が人材育成としてできる最大限のアプローチだと思います。
人を直接変えることはできない。しかし、人が自ら変わっていくための環境をつくることはできる。
私は今、この考え方に組織開発の可能性を感じています。
免疫マップを描くべき最初の一人は経営者自身である
組織とは個人の集合です。組織の問題を考えるとき、まずその出発点は「個人」になります。
ここで言う「個人」を「組織を成す要素」として考えるならば、もちろんそのトップである社長(経営者)も組織改革の対象者となります。
こちらの本では、なんと経営者自身が自分の変化への恐怖である「第3枠裏の目標」と「第4枠強固な固定概念」を経営層に発表し、自分自身がこの第3枠と第4枠を変えていきたい、変化をしたいことを発表する事例が出てきます。
なんともアメリカっぽい‥!と思いますが、ここまでトップ自身が「自分も変革の対象である」と認めて初めて、組織全体に「変わるのは社員だけではない」というメッセージが伝わるのだと思います。ようやく従業員が「私も変わろう」という意識を持つのはその後です。
そこまでの覚悟、ありますか?
人を変えようとする前に、自分は何を恐れているのかを知る。その問いから組織変革は始まります。
本書は、部下を変えるための本ではなく、変革を担うリーダー自身にも「あなたは変われるのか」と問いを突きつける本でした。だからこそ、組織開発に携わるすべての人に、一度は読んでいただきたい一冊です。
組織は、一夜にして変わるものではありません。
株式会社IGNITE HORIZONは、ただ単に人事制度をつくる会社ではありません。
次世代へ安心して会社を引き継げる組織をつくる、組織開発パートナーとして、現場ヒアリングから人事制度設計、運用、その後の組織体制作りと人材育成のフォローアップまで一貫して伴走しています。
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